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The witch of contract

「彼女の名はクレハ。鬼種と呼ばれる存在と人間の混血だ。……もう千年以上前に鬼と人が交わり、その間に子が生まれた。彼女はその血統の四代目なんだ」

「……は?」



 出てきた言葉は余りにも突飛で、どう解釈したらいいのかわからない。

 ええっと、鬼と人のハーフが生まれて、その子供はクオーターで、その子供は……。

 なんだろう。あ、いや、そこは重要じゃないかもしれない。


「まぁ、この辺は信じなくてもいいよ」

「というか、千年以上前から数えて四代目っておかしくないですか?」

「いい着眼点だ、朔ちゃん。そう、その一族は寿命が凄まじく長かったんだ。なにせ、二代目がまだ生きてるんだからね」

 やはりハーフだクオーターだということはどうでもいいらしい。しかも、まだクオーターな人が生きているらしい。凄いな、十倍は生きるのか。


「そんなわけで時間が十分にあったせいか、彼らは魔道の研究を始めたんだ。まず、初代は鬼の血を濃く受け継がせる術を手に入れた。お陰で子も孫も長寿だよ。……で、だ。その特異な血の力もあって、三代目の頃には名の知れた魔術師となった」

 あの時、赤いお姉さん……いや、クレハさんは自分を魔法使いだと言った。そして俺たちはその魔法にかかった。俺にはこの話を嘘だと言い切れる確証も自信も持ち合わせていない。

「まぁ、二代目はもうしょぼくれた爺さんだし、三代目は重度の引きこもりだから、一般人に迷惑をかけることはないからいいんだけど、その娘は酷く悪戯好きでね。きっと世界中に君たちみたいな被害者がいるだろう」

「うわぁ……」



 想像するだけで背筋が寒くなってくる。

 しかも他の人たちは俺たちみたいな複雑な関係ではなく、一方的に誰かを支配するのだ。

 する方もされる方も人生が狂ってしまいそうだ。

「さて、クレハの実際の力についてだが、成熟した家系の魔術師は大抵人生をかけて一つの魔術を研究するものだが、こともあろうかアレは他人の肉体の支配権を奪う魔術を研究し始めたんだ。その効果は身に染みてるだろう?」


「もう、嫌というほどに。こいつ、容赦なくて」

「晃のせいで、学校じゃ変態扱いされて……ううっ……」

「変態か。それはとても悲しいよね。よくわかるよ、その気持ち」

「マスターも変態なんですか?」

「小夜ちゃんがね、変態扱いするんだよ。酷いよね」

「あなたは間違いなく変態です」


 先程から少し離れて話を聞いていた小夜さんが、すかさず突っ込みを入れる。まるで夫婦漫才のようなテンポで、なんだか微笑ましい。きっと、この人たちも色々とあるのだろう。

「まぁ、それはそれとして。クレハの魔術というのは、契約を結ぶことによって支配権を譲渡させるものなんだけど、最近は契約の同意すら必要なくなって、さらにタチが悪くなってるんだよね。ちなみに、その世界では契約の魔女と呼ばれてる」


「契約の魔女……悪いイメージしか浮かんでこないな」

「確かになんか魔女っぽいよね。猫とか連れてるあたりが」

「そういえば、クシャトリヤって名前はカースト制度の第二位の名称じゃないですか?」

「あぁ、クシャは百年くらい前にインドで会った時に付けた名前らしい。彼女はカーストをやたらと気に入ってて、自分をバラモンに見立ててあんな名前を付けたんだ。まぁ、あまり趣味がいいとは言えないね」

「百年って……クレハさんはその、混血ってのだとしても、なんでその猫もそんな長生きなんですか?」

「クシャはクレハと特別な契約を結んで命を与えられた使い魔だ。簡単に言うと、ワイヤレスでエネルギーを送ってる感じ?」



 全然わからなかった。

 そもそも、俺も朔もクレハさんについての説明を何も理解していないような気がする。なんとなく感じたのは、関わりすぎるとヤバイなという恐怖心。

 マスターが大人しく引き下がった方がいいと言っていたことを思い出す。

 確かにそんな魔女の元にのこのこと出ていったら、何をされるかわからない。


「……なんで……」

「ん? どうかしたかい、小夜ちゃん」

「あ、いえ……。私は今までの話を信じたくはないんですが、その……クレハという人は、どうして他人を支配しようとしてるんでしょうか。そうして人を手に入れても、悲しいだけだと思うんですが……」

「そうだね。というか、アレはただのガキなんだ。三百年も生きてて、未だに思い遣りというものを知らない。それどころか、人の心まで自分のものに出来ると思い込んでる。どんなに肉体を支配したとしても、その人の心までは支配出来ないというのに……」

 三百年生きている人をガキ扱いか。本当に何者なんだこのおっさん。



「………」

「どうした、朔。気分でも悪いのか?」

「少し怖い話をしすぎたかな? 水いるかい?」

「あっ、いやっ、そんなんじゃなくて……」

 そう言うものの、朔は明らかに顔色が悪い。

 赤いお姉さんについてわかったものの、これ以上は先に進めそうにもないし、今日は帰って休んだ方がいいな。猫はまた明日にでも探せばいい。


「帰ろうか、朔」

「……うん」

「おや、もう閉店の時間か。最近は客の入りが悪くて困るね。このままだと小夜ちゃんの給料が減ってしまう」

「その前にまず、あなたの無駄遣いを減らしてください。この前も必要経費と言いながら高い版画を買いましたよね?」

「……ぐっ。あれは、そう……若いアーティストを金銭的に支援するのも、大人の大事な役目だということで……」

「そういうことは、資産が有り余ってる一部の人間の社会的責任です。毎度そんな買い物をして、自分の生計すら立てられなくなるあなたには縁のないことだと思いますが」

「……そうですね」


 小夜さんに言い負かされて落ち込むマスターを見ると、やはり女性の方が強いなぁと思ってしまう。他人事ではないのが、余計に悲しい。

 女性をリードする男になるには、どうしたらいいのだろう。誰か教えてくれ。

「……さて、君たちはこれでもクレハに会いたいのかい?」



「俺は……会いたいです。この機会を逃したら、もう二度と会えないと思うし……」

「……わ……私も」

「そうか。なら、レオーネというホストクラブに行ってみるといい。彼女はきっとそこにいるはずだ。行き付けの店でこの街に来ると必ず寄る」

「え? ……本当ですか? でも、なんでホストクラブ? ……まさか、誰かを奴隷にしようとしてるんですか?」

「いや、これはただの趣味らしい。なんでも、自信満々の若造を持ち上げて、一気に叩き落とすのが楽しいらしいんだ。クシャをお使いによこすくらいだから、今日は恐らく同伴してるだろうね……」


 悪女だ。間違いない。

 鬼種の混血だとか、契約の魔女だとか、そんなことの前に人としてどうかしている。

 クレハさん、性格歪みすぎ。



「でも、そこに行けば会えるんですね?」

「ああ。ちょっと待ってて、地図書くから。……それと、ここのことはスカーレットから聞いたって言えば、会ってくれるはずだ」

「スカーレット?」

「彼女は私をそう呼ぶ」

 確かスカーレットって緋色だよな。だが、どうみてもマスターは赤って感じではない。

 それに、クレハさんの方がよっぽど緋色だ。


「はい、地図」

「ありがとうございます」

 マスターから地図を受け取って見てみると、そこはここから少し離れたネオン街を示していた。普段は近寄らない地域で少し怖い。

「うまくいくことを祈ってるよ」

「はい。……あの、一つだけ聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

「マスターもその……魔術師なんですか?」


「いや、私は奇人変人の知り合いが多い、ただの喫茶店のマスターさ。ね、小夜ちゃん?」

「類は友を呼ぶという諺はご存じですか?」

「なら小夜ちゃんもそこにカテゴライズされるのかい?」

「……先程の発言を取り下げます」

「それはよかった」



 なんだかうやむやにされてしまったが、質問に答えてくれそうにないことはわかった。きっと、俺たちには理解できない領域にいるのだろう。

 それに、怪奇な存在はクレハさんだけでお腹が一杯だ。これ以上悩みごとは増やしたくない。

 俺たちのごたごたが解決したら、何も聞かなかったことにしよう……。


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