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むりやり保安官の事件簿  作者: 名瀬口にぼし


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最終話 旅立ち

 家に戻った私は、ぎっくり腰の父親に叱られたり、友達に愚痴を言ったりと忙しかった。

 いつもどおりの生活を送っているうちに、何週間かが過ぎた。季節は秋の終わりから真冬になって、私は一回軽い風邪をひいた。


 私が再びオーラム村を訪れたのも、乾いた空気がぴりぴりと痛い寒い日だった。

 私は村の入り口にたつ案内板の前で、馬から降りて、手に息を吹きかけながらずっと待っていた。コートを着込んでいたけど、じっとしているのは寒くてつらかった。それでも私は立っていた。

 遠くから蹄の音した。私はその方向に目をこらす。馬に乗った黒い人影が、だんだん近づいてくる。


「ギィ・デュバル!」


 私は道の真ん中に立って、その名前を叫んだ。

 黒い帽子に黒いコート、黒い眼帯。出会ったときと同じギィの姿が見えてくる。

 ギィはスピードを緩め、私の前で嫌々馬を止めた。


「なぜお前がここにいる。帰ったんじゃなかったのか」

 頭上から響く、むかつく声。数週間ぶりだけど、とても懐かしい気がした。

「あなたの怪我が治って出発するって聞いたから、わざわざ来たんだよ」

 私はわざと怒ったような口調でギィをにらんだ。

「一体何の用だ」

 ギィは舌打ちをして聞いた。


 私は答えの代わりに、無言で小さな袋を投げてよこした。ギィは袋を落とすことなく受け取ると、中身を見て眉をひそめる。

「この金は?」

「私の全財産よ」

「少ないな」

「仕方がないでしょ。銃弾とか買うのにお小遣いはほとんど消えたんだから」

 私は腕を組んで、ギィを見上げる。

「で、このはした金をなぜ俺に?」

 ギィは不思議そうに、袋を閉じた。


 その問いに答えるには、ちょっとした勇気が必要だった。私はポシェットの上から兄さんの銃に触れた。布越しの硬い感触。私は大きく息を吸った。


「私は兄の復讐をしたいけど、兄を殺した人がわからない。でも私一人で探すには、私はあまり頭の出来がよくないから」

「まぁ、そうだな」

 ギィの軽く失礼な相づちを、私は無視した。

「一方、あなたは探偵としてはそこそこ」

 なんとなく続きを察したギィが、顔をしかめる。


 私はギィを見つめた。眼帯で半分隠された顔を改めて観察すると、どきどきした。私は目をそらさずにギィに言った。

「だから私はあなたを雇うことにした。私の兄を殺した人を見つけてよ。期限は設けないけど、あんまり待たせないでよね。私、待つの嫌いだから」

 それは依頼というよりも命令だった。


「はぁ? たわ言は馬鹿に言えよ。だいたい、これっぽっちで足りるわけないだろうが」

 無銭飲食者を見るような目で、私を見下ろすギィ。

 私はひるむことなく、条件を補った。

「足りない分は、私があなたの助手をやって返すから、それでいいでしょ」

「断る。お前みたいな女、金もらったって雇うか」

 悪びれず要求する私に、ギィは怒鳴る寸前だ。

「じゃあ、今から私の行先はすべてあなたとたまたま一緒になるけど、文句は言わないでよね」

 私は自分の決めたことを曲げる気はさらさらなかった。


 正直、ギィと一緒に行ったら兄さんの仇が見つかるという自信はない。だけど、一人なら探し出せるというものでもない。

 それなら私は、ギィのそばにいたかった。ギィに私を守った代償を払わせたいと、そう思った。


「もう勝手にしろ」

 ギィはいまいましげに私を一瞥すると、馬に拍車を入れた。

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

 そうして私も自分の馬に乗って駆けだした。冬の空は高く、灰色だった。


 私はもう二度と、あなたに死んでもいいなんて言わせない。私を守らせたりもしない。

 あなたとは一生、対等にはなれないかもしれない。

 それでも私は、そうあろうとすることはあきらめないから。

 結んだ白髪の揺れるギィの後ろ姿を追い、私は声には出さなかったけど、そう決めた。

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