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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
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(2)-2


 昔、じいちゃんが言っていた。

 人生の中で受ける、幸運と不運の絶対量は決まっている、と。

 だとすれば、今の自分は、おおよそ一生かかって受ける不幸を、この僅かな期間で一気に消化しているのだろうか、と拓磨は思う。

 先週、そのじいちゃんが死んだ。

 昨日、千紗に振られた。

 そして、今日何故かタイヤがパンク。

 おかげで、こんな時間だ。

 薄暗くなった田んぼ道で、自転車をこぐ拓磨。

 遙か彼方に、自分の住む町の町明かりが、うっすらと見える。

「絶対『苦労:大』モードだ。間違いない」

 拓磨は抗議をするように天を仰いだ。

 再び前を向こうとした拓磨の視線が、途中で止まる。

「なんだ? UFOか?」

 拓磨の質問に答える者はいない。

 薄暗い空に三角形の物体。

 紙飛行機に見える。

 見える、と思った時点で、拓磨はその異様さに気づく。

 正確には分からないが、おそらく、ここから数百メートルは離れているだろう。

 なのに、紙飛行機と分かるその物体は、矛盾するが、明らかに紙飛行機ではない。

 つまり、大きすぎるのだ。

 人が2人は軽く乗れそうな大きさ。

 しかし、その形状は紙飛行機以外の何でもない。

 やがて〈紙飛行機〉は、拓磨の頭上を通り過ぎ、視界の後ろへと消えていく。

 自転車をこいでいるので、後ろを振り返る事が出来ない。


 拓磨が自転車を停めようか考えた次の瞬間、経験したことがない感覚に襲われる。

「!?」

 まるで、地球から重力が抜けたかのように、体重を感じなくなった。

 気づくと、田んぼの真ん中に、馬鹿みたいにまっすぐ続く道が一望できている。

 ――一望?

「わっ? わーーーーーーっ!」

 事態を把握した拓磨が、間抜けな声を上げる。

 遠ざかる地面。

 自分が宙に浮いていることが判る。

 慌てて上を見ると、赤っぽい板のような物が、頭上を覆っていた。

 先ほどの、紙飛行機もどきである。

「だっ、誰かーーーーーっ!」

 大声を上げる拓磨。

「無駄だ。お前の声が届く範囲には誰もいないし、仮にお前の声に気づいた人間がいたとしても、やはりどうすることも出来ない。逃れようと実力行使をしたとしても、飛ぶ能力がないお前に明るい未来は保証されていない。大人しくすることを勧める」

 安易な希望をあざ笑うかのような、しかし、どこを取っても的確な指摘をする、やたら冷静な少女の声を探し、拓磨は再び上を向くが、やはり赤い板以外何も見えない。

「君は、誰?」

 聞いても仕方ないと思ったが、ほかに思いつくこともなかったので、拓磨はとりあえずコミュニケーションを試みることにした。

 無視されるかと思ったが、意外にあっさりと答えは返ってきた。

「私は、エリス。王国所属第十三科学系戦術師団を率いる。今回、〈鍵〉を持つお前を狙う敵より警護し、移送するという任務を拝命して、現在、作戦行動中だ」

 いや、返ってきただけで、さっぱり意味が分からない。

 むしろ、聞くべきでなかったと、拓磨は後悔する。

 第一、この国は王国ではない。

 それに、鍵って何だ? 家の鍵なら持っているけど。

「……えっと、多分、人違いだと思うんだけど」

 応対に困り、とりあえず思いついたことを口にする拓磨。

「人違いではない。私の作戦行動に間違いが生じる確率は、現時点ではほぼゼロだ」

 これもあっさりと切り替えされる。

 しかも、全く反論の余地がないような、言うならば、定規でびしっと線を引くような回答。

「人違いではないと言われても……」

 拓磨は反論しようとしたが、言葉に詰まる。

「お前は、櫻井と言う姓を持つ16歳男性。こちらの世界で、県立春日高校に通う高校1年生。遅刻の常習犯。山根晋という親友がいる。母親と二人暮らし。先週、神官である祖父を亡くしている。他にもあるぞ? 人違いである確率は、約5億分の1だ。それでも、人違いだと言うのか?」

 ――はい、おっしゃる通り、それは間違いなく僕です

 拓磨は反論するカードを失った。

 はっきり言って、突っ込みどころは満載だ。ありすぎて、何から突っ込んで良いのやら分からないだけである。

 ただ……、と拓磨は考える。

 少なくとも、ここで言い合いをするのは得策ではない。

 忘れかけていたが、拓磨は現在空中を移動中だ。おそらく、声の主が拓磨を持ち上げているのだろう。

 先ほど指摘された通り、相手が逆上して拓磨を取り落としでもすれば、それこそ命がない。

 ――チャンスを伺って、逃げよう

 何せ、拓磨には毎回の遅刻バトルで鍛えた足がある。逃げ切れる可能性は十分にあると言っていい。

「いや、人違いじゃないみたいだ」

 拓磨は作戦を決め、短く答えた。

「解ればよい」

 それっきり、少女の声は聞こえなくなった。


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