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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
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(2)不幸

 ざわざわとした、朝の喧噪。

 いつも通りの教室の風景だ。

 晋は、後ろの席の山崎彰と、日曜日のバラエティー番組の話をしていた。


 ガラガラ

 

 何の脈絡もなく、扉の開く音がする。

 まあ、朝なのだから、扉の開く音など珍しくもない。

 朝の情報交換に勤しんでいた数人の生徒が、新たなる情報源を求めるべく、扉の方をちらりと見た。

 次の瞬間、その数人を起点として、波が引くように教室が静まりかえる。

「おい、まじかよ」

「21世紀の奇跡だ!」

「天変地異の前触れじゃないのか?」

「何か変な物食ったのか?」

 口々にひそひそと囁く生徒の視線は全て、たった今開け放たれたドアに注がれている。

 その視線の先には、仏頂面の拓磨がいた。

「おっ! おはよう、拓磨! 今日は早いなっ!」

 静寂を破ったのは、晋。

 親友として、この場を何とかしなくてはと言う責任感からであろうか。

「おう」

 晋に応えるように、仏頂面のまま片手を上げる拓磨。

 教室に、再びいつもの喧噪が戻る。

 晋の前の席に腰を下ろす拓磨。

 隣の席に当然のごとく座っていた千紗は、ちらりと拓磨を見、

「おはよう」

と短く言い、再び前を向いた。

「……おはよう」

 呟くように、拓磨。

 教室の数人が、その様子に気づいたが、とりあえず今は調査段階であると考え、再びそれぞれの会話の続きを始めた。


 ホームルームのために教室に現れた担任も、拓磨を見て少し驚きの表情をしたが、すぐに表情を改め、出席を取った。

 何事もなかったかのように一限が始まり、四限が終了し、昼になり、五限が始まり、七限が終了する。

 しかし、教室内の拓磨と千紗の周辺だけが、今までと違う空気で満たされていることを、クラス中の誰もが感じていたが、だれも触れないようにしていた。

 夕方のホームルームが終了し、千紗は友人のさくらと部活に行き、拓磨も、何事もなかったかのように、鞄を担いで教室を後にした。


 ……なーんてこと出来るわけもなく

「えー、スタジオ、聞こえますか? こちら、現場からレポートをお送りするのは、山口です」

 がちっと、山口が拓磨の右腕を掴む。

「はい、山口特派委員。現場の状況を報告してください」

 同じく、川崎昭彦も拓磨の左腕を掴んだ。

 山口、川崎両名に引きずられるように、教室の中に連れ戻された拓磨は、黒板の前に用意されていたパイプ椅子に座らされる。

 黒板には、

『緊急記者会見!櫻井拓磨(16)×結城千紗(16)突然の破局??』

『「私、もう耐えられません!」体たらくな旦那に対する妻の悲鳴!?』

などと書かれている。

「ちょっと~、やめなさいよ~」

 様子に気づいた女子生徒がたしなめるが、あっという間に、拓磨の周りに人だかりが出来る。

「えー、どちらが振ったんですか?」

「今の気持ちは?」

「ご両親が反対されたのですか?」

「もう復活はあり得ないんですか?」

「ちーちゃんの部活にイケメンの先輩がいますが、今回のことと関係があるのでしょうか?」

 それぞれが、今まで約9時間我慢していた疑問を一気にぶつけた。

 終始無言で無表情を保っていた拓磨は、一通り質問の嵐が収まるのを確認すると、おもむろに顔を上げ、

「櫻井拓磨。昨日千紗に振られました。理由は、皆さんの想像通りです。あ、先輩は無関係だと思います。復活は、……多分ありません。以上」

 仏頂面でそれだけ言うと、がたがたと立ち上がり、群衆の脇を抜けた。

「あ……」

 山口が何か言いかけたが、拓磨のいつもと異なる雰囲気を察したのか、口を閉じる。

「拓磨さーん、まだ終わっていませんよ~」

 空気を読めない数人の男子生徒が、拓磨を追いかけようとしたが、晋が睨み付けると、ばつの悪そうな顔をして立ち止まった。

「マジで終わりなのか?」

 山口が晋を見る。

 晋は、少しおどけたポーズで肩をすくめた。


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