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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[終章]そして、明日
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終-2


「ただいま~」

「あー、疲れた」

 ガラガラという音と共に、春日高校の制服を着た男女が玄関口に現れる。

「エミリ! 暑いっ! 何とかしてくれ」

 少女は鞄を投げ出すと、廊下に仰向けに寝そべり、制服のボタンを外して風を送る。

「ちょっ! エリスっ! 何してるんだよっ」

 エリスが脱ぎ捨てた靴を下駄箱にしまい、廊下を歩いてくる拓磨の声に、エリスはぞんざいな視線を向けた。

「暑いから涼んでいるだけだ。何か問題があるのか?」

 拓磨は、額に手をやる。

「……問題じゃないけど、女の子だって言う自覚をもう少し持って欲しいなぁ」

 その言葉にエリスは手を止め、拓磨をじっと見上げた。

「拓磨。私の学校での行動で、何か問題が有るのなら、指摘してくれ。改善する」

「いや、それは全然問題ないけど」

「なら、良いであろう。大体、『桜庭かなみ』を演じるのは疲れるのだぞ! 何故、清楚可憐な少女を演じなければいけないのだっ。キャラじゃない!」

「結構気に入ってるくせに」

 拓磨の呟きに、エリスが半眼になる。

「拓磨、……処分されたいのか?」

 エリスがスカートのポケットをごそごそやるが、出てきたのは春日高校の生徒手帳。

 はっと我に返るエリス。

「……そうか、〈力〉はもう無いのであったな」

 その様子を見ていた拓磨が、プッと吹き出した。

「な、何が可笑しい!」

「フフフ、やっぱりエリスって可愛いなぁ~って」

「かっ! かわっ……! だだだ誰に向かって!」

 エリスは耳まで真っ赤にし、拓磨を威嚇する。

 そのとき、トタトタと音が近づいてきた。

「そ、そうだ、エミリ、何か見つかったか?」

 救いを求めるように、エリスが視線を上げる。

 拓磨がエリスの視線の先を見ると、エミリがあごに手をやりながら、歩いてくる。

 紺色で統一された服ではなく、水色のTシャツにグレーのスラックス姿……由衣の服だ。 特記すべきは、肩から薄ピンク色のエプロンを掛けていることであろう。


「色々調べたけど、よく分からないのよね。文献によれば、これみたいだけど……」

 エミリは、首を傾げつつ閉じられた扇子を差し出す。

 エリスは寝ころんだまま扇子を受け取り、しげしげと眺める。

「何だこれは? 武器ではないのか? こんなもので涼しくなるのか?」

 拓磨は、二人の様子に唖然としていた。

「ねえ、エリスにエミリ、念のために聞くけど、……冗談で言っているんだよね?」

「何がっ!」

「なによっ!」

 キッと拓磨を睨み付ける2人の剣幕に、拓磨は少し後ずさる。

「ご、ごめん。じゃあ言うけど、それはね、こうやって使うんだよ」

 拓磨がエリスから扇子を受け取ると、留め具を外し、扇形に開いた。

 鶴の絵が描かれている、普通の扇子だ。

 穴が開くような視線で見つめるエリスに向かって、拓磨は扇子で風を送った。

 エリスは一瞬目を閉じたが、送られる風に気持ちよさそうな表情をする。

「へぇー、そうやって使うのね」

 感心するエミリ。

「えっと、……じゃあ、これから色々と、この国の文化や常識について勉強しようか」

 あまりにも素直に感心するエミリに不安を感じ、拓磨が申し出る。

「そうね! お願いするわ。今朝みたいに爆発すると困るから。……そのかわり、料理は任せておいて!」

「ああ、……そうだね。そういえば、レンジ掃除しなきゃ」

 実は、今朝レンジの使い方をエミリに説明している横で、起きてきたエリスが冷蔵庫から卵を取り出し、レンジにかけたのだ。

 その結果を知らないものは、この国にはいないだろう。

「……おかげで12回目だよ、やばいよ」

 拓磨は、遅刻の原因となった今朝の惨事を思い出し、ため息をつく。

「拓磨っ!」

 突然、下から不機嫌そうなエリスの声。

「うん?」

 拓磨が見下ろすと、エリスが拓磨を睨み付けている。

「風っ!」

「あ、ああ、はいはい」

 拓磨は止めていた手を再び動かし、エリスに風を送った。

「ていうか、エリス自分でも出来るじゃない。もうこれの使い方分かったでしょ?」

「うるさいっ! 分からないっ! また爆発させたいのか?」

「……いや、しないし」

 拓磨はため息をつき、エミリを見上げる。

「エミリ? ……これがエミリの敬愛する、中将殿の真の姿だよ?」

「拓磨、私はそう言うのをひっくるめて、中将を慕っているのだ。何も問題ない」

 エミリが微笑みかけた瞬間、その顔に緊張が走った。

 遅れて、トントンと玄関の引き戸を叩く音。

『すみませーん』

 固い声がする。

 拓磨は慌ててエリスを引き起こし、エリスも服装を整える。

「『桜庭恵里』、かなみの姉」

 拓磨はエミリを指差すと、エミリが頷く。

「『桜庭かなみ』」

「わかっている」

 エリスがぶっきらぼうに答えると、拓磨は玄関の方を向いた。

 しかし、その間を不在だと思ったのか、引き戸の外で先ほどとは違う声音がする。

『おっかしいなぁ。情報によれば、ここのはずだけどなぁ。俺も落ちたなぁ』

『任務失敗』

 瞬間、エミリの顔がぱあっと明るくなる。

 エリスも目を見開き、引き戸に映っている大きなシルエットを凝視する。

 拓磨も、その声には聞き覚えがあった。

 それは、とても懐かしく、とても頼もしい声。


「まさかっ! 還ってきたの?」

 エミリは震える手を押さえ、ドアへと急いだ。


(終わり)

[解説的な後書き]


 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 このネット社会、このサイトでも1時間に数百人が投稿する中、私の作品を見つけていただけた奇跡に感謝します。

 また、有名でもない、素人が書き散らした駄文を読むのは、相当の苦痛を伴ったのではないかと、心配しております。

 暇つぶしであれ、気分転換であれ、感動であれ、本作品に費やしていただいた時間が、有意義であったことを願っております。



 さて、過去に作った作品の放出中という事で、公約通り? 一番最初に作った作品の投稿です。

 あ、誰も知りませんよね。……何事かと思われる方は「私の住むせかい」の最終話の後書きだけ見ていただければ(笑


 この時のプロットは超適当で、「冷静沈着」で「無敵」の主人公が「後半壊れる」という筋書きのみで、勢いで書いたものになります。

 こちらも3回ぐらい1から書き直しています。


 ただ、エリスという人物は、私が作ったキャラの中で一番好きであり、思考回路、口癖や仕草までお気に入りに作りこんでいます。まあ、こんな人がリアルでいたら少し嫌ですが……(ぉぃ。

 あと、エリスのキャラに自分の生き方が影響されているなぁと思うことも、しばしばあるぐらいです(おかしなこと言ってるなぁ)。

 そうですね、ふとつぶやく一言に、あれ? このキャラってどのアニメ? 小説? だっけ? って色々読み返して、なんや、自分のかい!みたいな突っ込みをする感じです(やはりおかしなこと言ってるなぁ)。


 ちなみに、主人公の「エリス」という名前は、私が敬愛する漫画家である、ふくやまけいこ先生の「ゼリービーンズ」という作品の中に出てくる主人公の名前が綺麗だなと思い拝借、「エリス」という登場人物を作りたいがために、かつて小説家を目指し、文章を作りました、みたいな……(遠い目)

 思えば、目指したのそうとうアホな理由でしたね。ふるい落とされてよかった……。


 そのふくやまけいこ先生は、とある実在する飛行士の名前が綺麗だなと感銘を受け、主人公の一人をその飛行士の名前にしたのですが、もう一人の主人公エリスの名前は、飛行機つながりでプロペラ用語から取った……はず、確か。

 トリビア的な話です。



 話がそれたので、少しだけまじめに解説すると、この話「も」ごくごく当たり前のテーマを描いたつもりです。

 人間の生きざまってのは、日々何かに真剣に取り組む、その規模が、学生生活であれ、会社生活であれ、または、国を背負う立場であれ、その思考の原動力となっているのは、結局は人間の最も基本的な思考である、誰かの恩や礼に報いたい、とか、好きな人に良く思われたい、とか、大切な一人を守りたい、とか、大義名分の下では本当に些細な、たったそれだけのことなんだろうなと。


 まあ、言ってしまえば、本作品のテーマは、10年前に偶然出会い、自分を守ってくれた少年に少女が恋をして、その思いを遂げるために10年もの間頑張ったお話し、という、しかも予定調和的な作品です(身もふたもないなぁ)

 そういう目で見ていただければ、私のどの作品も、なんや、見かけは違うけど、結局中身同じやんけ! という突っ込みを受けること間違いないです(汗


 仕方ないです、自分が読みたいなってのを書いてくうちに、こうなっちゃうんです。

 もっと、他の作家のような、壮大なすぺくたくるろまん的なものや、ハンカチなしには読めない的なものや、サクッと読めて楽しめる的なのを書きたいけど、気づくと結局こじんまりまとまっているです。

(あいまいはサクッと読める系を目指した本当の書き下ろしなのですが、テーマがブレブレです)


 ということで、大放出フェアも残り1作品となりました(あれ、1作足りない!? ……まあ、いいや)

 次はちょっとシリアス……だったはず。

 毎回加筆修正して投稿しているので、気が向いたときに、いつか……。


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