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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第5章]過去と現在(いま)と……
62/64

(5)-4

 エリスだったものが、赤黒く染まり、実体が分からなくなる。

 この世の中のすべての音を同時に鳴らしたかのような、轟音が空間を満たす。

 風が吹いているわけでもないのに、感じたことのない圧力を感じ、身体が押し出される。

 しかし、恐怖に支配された拓磨の身体に、未だ何の変化も起きない。

 ――どうして? まさか、〈鍵〉が発動しない?

 その時、拓磨の視線の先で、天空の一部に「ヒビ」が入った。


 ――やばい! 結界が壊れる!


 エリスが本気を出せば地球を3等分出来ると言っていた。

 その強大な〈力〉の前に、エミリ達が張った結界など、実際は無力なのだろう。

 やはり無理だったのだ。

 そもそも、〈鍵〉の発動方法など、聞いていなかった。

 エリスが〈力〉を解放すれば、自動的に発動すると考えていた。

 考えが浅すぎたのだ。

 安易すぎる作戦が導く結果は……

 〈エリス〉が拓磨を指向した。

 ――殺られる

 拓磨の身体が凍り付く。


「――逃げ……ろ――」


「!!」

 しかし、轟音の中、一瞬聞こえたエリスの声に、一気に拓磨の思考が回復する。

 その〈エリス〉の手の中に黒い石が現れた。

 あれは、先ほど拓磨が取り落とした石、エリスは「最後の砦」だと言っていた。

 〈エリス〉が、何かに抗うように、まるで自分のものではないかのように、のろのろと手を動かし、指で空間をなぞり始めた。

 何もない空間に、青白い光でその軌跡が残る。

 ――駄目だ! エリス!

 拓磨は叫ぼうとするが、声を出すことに失敗する。

 描いているのは、恐らく、先ほど見た波動制御記号。

 あの冷静沈着なエリスのこと。拓磨がその『意味』にたどり着くのに時間は要さなかった。

 自我が完全に失われていく中、僅かな自我を、このために残しておいたということだろうか。

 恐らく、拓磨が失敗することは織り込み済みだったのだ。

 もしそうなった場合、エリスは〈力〉を完全に空間に放出した状態で自らを消滅させる事により、自分と引き換えに拓磨を守るつもりだったのだ。

 拓磨の身体が、再び凍り付く。

 今度は、別の意味で。

 ――エリスの『方法』では、少なくとも、僕しか助からない!

 ――エリスが、僕の前から消えてしまう

 ――それだけは、嫌だ!

 エリスとのこの1週間の思い出が、走馬灯のように繰り返される中、必死に自問自答して、解を探す拓磨。

 ――早く! 発動の仕方を考えろ!

 ――いや、違う? 鍵を『発動』させるんじゃないんだ

 ――鍵は、僕自身!

 エリスは、どんな時でも、拓磨を、拓磨だけを守ろうとして来た。

 今度は、拓磨がエリスを守る番なのだ。

 ――でも、どうすれば良い?

 ――僕は、どうしたい?

 ――僕は、エリスとどうなりたい?

 〈エリス〉の描く記号が完成した。

『ニ……ゲ――』


「僕はエリスから逃げたりしないっ!」


 拓磨は反射的に叫ぶ。

 ただし、ある確信と覚悟を持って。

 〈エリス〉の動きが止まる。

 轟音が収まった。


「エリスっ! もう大丈夫だっ! 約束するっ! 僕を信じろ! 絶対に、……絶対にエリスを捕まえるからっ!」

 拓磨は叫ぶ。

 もう、恐怖はなかった。

「だからっ! 『本当に』力を解放しろっ!」


 拓磨は気づいたのだ。

 〈鍵〉が発動条件を満たしていない事を。

 昨晩、拓磨達自身が確認したではないか。

 お互いを求め、かつ、その〈力〉が邪悪であること。

 迂闊にも、拓磨は、土壇場で自分ではエリスを封印できないのでは? という不安を感じてしまった。エリスの〈力〉に恐怖を感じてしまった。

 そして、エリスは、それに気づいてしまった。

 だから、エリスは作戦を変えたのだ。自分で制御できるギリギリの力しか解放しないように。

 そんなことが出来るものなのか判らないが、エリスはやってのけたのだろう。

 拓磨を守るために。

 皮肉にも、それは、邪悪とは対極にある、純粋な想いから生まれた〈力〉。

 故に、〈鍵〉の発動条件を満たさない。 


〈本当に、……良いのだな?〉


 僅かに聞こえた、エリスの声を、拓磨は聞き逃さなかった。

「ばっちり、フルパワーで、問題なしっ!」

 〈エリス〉が笑ったような気がした。

 激しくデジャヴを感じるやり取り。

 和室での出来事を思い出す。

 エリスも思い出したのだろう。

 だが、今の拓磨に不安はなかった。

 今なら、自分は絶対にエリスを助けられるのだと。

「よし、じゃあ、始めっ!」

 その言葉を待っていたかのように、エリスが空間に描いた波動制御記号が霧散した。

 拓磨は、赤黒く染まる中、何事かを呟く〈エリス〉を無我夢中で求め、両手を広げ、地面を蹴る。

 同時に、先ほどの轟音が再び空間を満たす。

 先程とは比べものにならない程の衝撃が、拓磨を押し返す。

 それでも、拓磨は必死に手を差し伸べる。

 何をおいても守りたい、愛しい存在に向かって。

 あと、……少し。

 天空のヒビが大きくなる。

「間に合うか? ……でも、」


 ――僕は! 2つとも手に入れてやる!


 天空のヒビが一気に広がり、地鳴りのような音と共に、まるでガラスが割れるかのように、空が粉々になり、地面に降り注いだ。

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