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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第5章]過去と現在(いま)と……
58/64

(4)-3

 エミリは、身体の震えが、何時しか笑いに変わっているのに気づく。


「可笑しいであろうな。私もそう思う」

 エリスは疲れたような目で、エミリを見上げていた。

「中将、冗談でも、そのような言動は慎んでいただきたい。万が一と言うことがあります」

 エミリは、エリスをたしなめる。

「かつて私は言ったな。……私は器用だから、ハンドブック無しで、この札で力を発動できると。その方が、速く大きな力を発動できるからと」

 しかし、エリスは軽く首を振ると、スカートのポケットをごそごそやり、手の中の物を机の上に投げ出した。

「そんな器用な人間など、存在せぬ」

 エミリは我が目を疑った。慌てて1枚を取り上げ、震える手で他のものも確認する。

 エリスが投げ出した札には、有るべきはずの、空間波動制御の模様が何も描かれていなかった。

 ただの白い紙。


「……10年前のあの日、私は、あの狭間をくぐって陽界に転落した。だが、当時の私には力がなく、異質を排除する人間たちによって、生命の危機に曝されていた。その上、異質な私を守ろうとしてくれた勇気ある人間の少年までもが、命を奪われかけたとき、私は、内なる声に同意し、力を解放したのだ」

「!」

 エミリは、その少年こそが拓磨なのだと、瞬時に理解した。

 エリスの陽界での不可解な行動の意味が、10年間の意味が全て1つにつながった。

「だが、……それは、誤りであった。私は、力に呑み込まれなければ、問題ないと思っていた。拓磨のおかげで、それは実現したのだ。私は『恐慌』とならずに済んだ。……ところが、実際は違った。私の力の存在そのものが、歪みを生み出していたのだ。皮肉にも、均衡を保つために敵を抹殺するときの、その力で歪みを増殖させながらな」

 エミリは本能的に悟った。エリスが、何を持ってこの作戦に決着をつけようとしているのかを。

 その後、何かを考えた瞬間、エミリは、自分が王国軍人として失格だと思った。

 エミリは思ってしまったのだ。エリスの正体がどうであっても良い、エリスを失いたくないと。

 エミリは、今や、中将としてではなく、エリス個人を慕っていた。

 それは、恐らくタケトも同じ。だから、あの時も、自分達を後回しにして、エリスの背中を押したのだ。

 その想いが言葉となって現れる。

「中将! いけません。たとえ、中将がどのようなお方であろうと、私は、最期まで中将と共にこの難局を乗り切る所存です! 恐らく、『真実』を知ることとなっても、他の兵士も半分、いや、8割以上は中将の下に残るでしょう。絶対に、解決策があるはずです! 現に、タケト中将の働きで、現時点での敵は皆無ではないですか! ですから、その身を持ってなどと言うことは、どうか……、どうか、お考えになりませぬよう!」

 最後の方は、悲鳴に近い声。

 びっくりした表情でエミリを見上げていたエリスは、口の端を上げた。

「少佐。……期待に添えぬようで申し訳ないが、残念ながら、私はそこまで愚かではない」

「……と、言いますと?」

 エミリは虚をつかれる。

「少佐は、〈鍵〉の持つ、第3の意味を知っているか?」

「元々〈鍵〉は空間エネルギーの制御に使われていたとされていて、第1は取り出すための『解放』、第2は空間に戻す『集束』です。今回は〈鍵〉で陽界のエネルギーを取り出し、相殺する作戦でした。が、第3……ですか?そんな話、士官学校でも学びませんでしたし、聞いたことが有りません」

 エリスは微笑むと、ちらりと拓磨を見、言葉を続けた。

「そうであろうな。私も昨日まで知らなかったのだからな。……だが、『鍵』がこの世に出現したのは、どういう訳だか私が力を解放したのと同じ時期なのだ。それも、何故か拓磨に宿った。その意味を考えてみれば、自ずと見えてくる」

「……」

 エリスは、考え込むエミリに向かって、いたずらっぽく笑うと、

「では、これは宿題だ。とにかく、私は〈鍵〉の第3の機能を使用し、私自身の力を無力化する。それで不均衡は解消し、作戦行動は終了だ。いや、この戦争そのものも終結するであろう。……おっと、これはほとんど答えであったな」

そう言い、立ち上がると、ポケットからパネルを取り出し、表情を改めた。

「エミリ少佐。すまない、最後に1つだけ力を貸して欲しいのだ」


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