(4)決意
朝靄が漂う中、拓磨と共に作戦室に入ったエリスは、物々しい雰囲気を感じた。
「約束は守ったぞ」
エリスは、作戦室の脇で姿勢を正す若い兵士に声をかけながら、その雰囲気の原因を探した。
作戦室のテーブルの前には、机に向き合うようにしてエミリが直立不動で立っている。
椅子には誰も座っていないのだが。
「?」
エリスは、首を傾げながらエミリの脇を通り過ぎ、テーブルに着いた。
顔を上げ、エミリと目があった瞬間、エリスは物々しい雰囲気の原因を発見する。
エミリは、なにやら思い詰めたような面持ちで、エリスを見下ろしていた。
「エミリ少佐、こ――」
「中将!」
エリスの言葉を遮り、エミリが固い声を上げる。
「な、何だ」
エミリの真意を測りかね、エリスは曖昧に答える。ちらり、と拓磨がエミリの斜め後ろの椅子に着くのを確認しながら。
「ここに集結している兵士全員……6346名の意思を確認しました!」
「意志、……とは?」
「我々の中で、軍法会議部に申し出るものはいません!」
「その話は……」
エリスは、机に視線を落とす。
何もない机。
――そうか、タケトはもう居ないのであったな
エリスは、ぼんやりと考える。
「判っています。作戦行動の一部始終を、中将が包み隠さず本国に報告なさっていることは。……ですから、その覚悟についても、昨夜話し合いました」
「覚悟、……とは?」
「本国が、どうしても中将を処分するの言うのであれば、……そうであれば、」
エミリは一旦呼吸を整えると、
「我々6346名の兵を持って、本国を制圧する所存です! 中将が率いる第十三科学系戦術師団であれば、作戦成功率は95%を超えます! ですからっ、中将には今後も我々の指揮を執っていただきたい! その意志と覚悟を伝えに参りました!」
ここまで一気に喋り、エリスをじっと見た。
エリスは虚をつかれ、救いを求めるように拓磨の方を見る。
拓磨は僅かに口の端を上げ、微笑んだ。
――ああ、そうだ、そうであったな
エリスは、危うくエミリの雰囲気に呑まれそうになるのを、かろうじて防いだ。
エリスは小さくため息をつくと、エミリを見上げる。
「少佐、大変光栄な申し出ではあるが、……それは出来ない。また、皆を危険に晒すその発言、聞かなかったことにしたい」
「中将! し――」
エリスは軽く左手を挙げ、エミリを制すると、言葉を続ける。
「少佐達は、本国に帰るがよい」
「少佐達……って、中将はどうなされるおつもりですか?」
「私は、……ここに残る。あ、心配することはない。〈狭間〉は正常化する。だから、少佐達は本国に戻り、その功績を讃えられると良い。誰も、……処分は受けないであろう」
「中将っ!」
エミリが、戸惑いと悲愴感の入り交じった声を上げる。
「昨晩、拓磨と決めたのだ」
「ち……?」
エミリは言葉を失う。
聞きたいことよりも、衝撃の方が大きかった。
エリスが、拓磨の名前を呼んでいることが……。
だが、同時に、昨晩何があったのか、容易に想像できた。
「……少佐の言いたいことは、解っているつもりだ。最近は、ずいぶん心配をかけたからな。すまないと思っている」
「中将、ご存じで……」
エミリは表情を動かす。
「自分の事ぐらい、自分が一番よく解っている。そこまで支配されてしまっていたら、今頃、部隊は壊滅していただろう。……いや、そんなことを言う資格はないか、すでに、かけがえのない者達を失っているのだからな」
「中将……」
タケトのことを思い出し、エミリの目頭が熱くなるが、それを別の感情で押さえ込む。




