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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第5章]過去と現在(いま)と……
54/64

(3)-2

「エリス……」


 沸き上がる感情を制御しあぐねる拓磨。

 自分の想いを再確認している拓磨。

「……少尉にとっては、迷惑な話だろう。だから、少尉がどう思ってくれても良い。……だが、あの時、絶望という名の闇から私を救ってくれた、……守ってくれた少尉に、せめて、礼がしたかった」

 再び、拓磨の身体を衝撃が突き抜ける。

 エリスの、あのエリスの頬を伝う光る物。

 膝の上でぎゅっと握りしめた拳が、整った顔の口元が震えている。

 エリスは、一瞬視線を虚空に移すと、息を吸い込み、拓磨を見た。

「感謝……い、いや、その、あ……ありがとう」

 エリスは、つい先日、由衣から教わったばかりの言葉を使った。

 瞬間、エリスは、心の中が不思議な光で満たされるのを感じていた。

 同時に、今まで自分に対し、事務的に言い聞かせてきた事柄が、心の部分が、堰を切ったように押し寄せる。

 そして、その言葉は、何の脈絡もなく自然にエリスの口から発せられた。


「ごめん……なさい」


 拓磨は表情を動かした。

 それは、本当に解らないと言う表情。

「何で……『ごめんなさい』?」

「少尉の母親を……死なせてしまった。少尉から大切な物を奪ってしまった。少尉に辛い思いをさせてしまった!」

「いや、……だから、それは……」

「違うのだ! ……どうしてだろうな、あの時、本当は由衣殿に伝えるべきであったのだ。……可能性として、この世界で少尉に最も近しい人物を、敵は利用するはずだと。それが誰なのか判っていたのに、……言えなかった。その名前を口にするのが、……辛かったのだ。何で、……何でであろうな」

 もう、ほとんど涙声のエリス。その目からは、止め処なくあふれ出る涙。

 エリスが、千紗のことを言っているということは、拓磨にも判った。

 何故、エリスが、千紗のことを由衣に言わなかった、言えなかったのか、拓磨には理解できた。人間なら、誰しもその闇を持っているだろう――『嫉妬』という名の闇を……。

 一体エリスはどんな思いで、今日まで拓磨を見、そして守ってきのだろうか。

 あのエリスが、自分などの事で嫉妬までしていたという事実に、拓磨は、身体の底から熱いものがこみ上げて来るのを感じた。

「ごめんなさい、……ごめんなさい。冷静に考えれば、少尉と……、私のような者に、そんな資格など元々無かったのだ。本当に……愚かであった。……それなのに、自分の欲望に負け、そのあげく、取り返しのつかない事を……、私は、私は――――!」

 こみ上げる衝動を抑えきれず、拓磨はエリスを抱きしめ、口を塞いだ。

 エリスの目が大きく見開かれ、両腕がやり場を失い、虚空に伸びる。

 そして、エリスは、ゆっくりと目を閉じた。

 拓磨がきつく抱きしめると、エリスは、恐る恐る拓磨の肩に両腕を伸ばした。

 お互いの鼓動が激しくなるのが、全身で感じられた。

 まるで、この世にお互いの鼓動しか存在していないように、激しく感じられた。


 永遠に感じられる刻の後、拓磨は、ゆっくりと顔を離すと、口を開いた。

「僕はね、多分あの日からだけど、現実と夢の世界を行ったり来たりしていたみたいなんだ。周りから見たら、いきなり記憶が飛んだり、おかしな事を言い出したりで……。それで、千紗にも振られちゃったんだけどね。でもね、ここでエリスに出会ってからは、その症状が全く出なくなったんだ」

 拓磨は、そっとエリスの頬についた涙を拭う。

「もしかしたら、僕は、あの時からずっとエリスの事が好きで、あれ以来、10年もの間エリスを探し続けていたのかも知れない」

 エリスは、泣き笑いのような表情をした。

「よ、よく考えたら、あの時、少尉には『呼び名』を教えれば良かったのだ。何故、『真名』を教えたのだろうな」

「そんなこと、今更僕に言わせるの?」

 微笑みながらそう言うと、拓磨は再びエリスを抱き寄せた。

「……あんな事して、もしかしたら、反逆罪かな」

「い、いや、問題ない」

 耳元で囁く拓磨に、エリスは耳まで真っ赤にしてぼそぼそと呟いた。

「なあ、エリス、……いや、エリシア」

 拓磨の言葉に、再びエリスの目が見開かれる。

「な、何だ」

「僕の名前を呼んで」

「!」

 落ち着きつつあった鼓動が、エリスの中で再び跳ね上がる。


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