(2)-3
そのまま6年生はサッカーボールを蹴るように、拓磨の腹を蹴り上げる。
「ぐっ!」
激しい痛みと吐き気が拓磨の身体を駆けめぐる。
「やめろっ! お前達の獲物は私だろう!」
少女が制止する。
「おい、こいつ喋ったぞ!」
「関係ないし。……おい、お前、誰に命令しているんだぁ?」
驚く1人にかまわず、もう1人の6年生が少女に拳を振り下ろす。
「がっ!」
鈍い音と共に少女が転がっていき、鎖に引っ張られて止まる。
「や、やめてよっ!」
少女の声に我に返ると、拓磨は痛みをこらえ、少女に覆い被さる。
(ばかっ! 何で逃げない。お前もひどい目に遭うぞっ)
(出来ないよ!)
「おもしろい!」
「一緒にやっちまえ!」
再び拓磨を蹴り上げる。
しかし、拓磨は少女を抱きかかえたまま動かない。
拳が振り下ろされる。
しかし、拓磨は少女を抱きかかえたまま動かない。
少女は、沸き起こる震えを抑えられずにいた。
(怖いの? 大丈夫。僕が……守ってあげるから。多分、隼がマ……マを呼んできてくれるから、それまで……の辛抱だよ)
殴られながらも少女を気遣う拓磨に、少女は大きく頭を振る。
――違う違う! 怖いのではないっ!
――何故だ! 何故お前は、私のためにそこまでする? 人間とは異質を排除する生き物。それは自然の理なのに……
少女の目から、熱いものが滴り落ちる。
何をされても、泣くことなど無かった。
痛みなど、少しの間我慢すれば無くなる。
無能な連中に少々辱められようと、誇りを忘れなければ耐えられた。
心の面で、精神で負けてはだめなのだ。それが負けない限り、自分を保てるのだ。
――なのに、こいつはっ!
――くそっ、何が誇り高きコーヌ族だっ。
――何が、この世を恐慌に陥れた、最も恐れられている種族だ!
――私は無力だ!
――私にっ、私に力があればっ!
ドクン
再び、少女の身体の奥で鼓動がする。
しかし、今度は先ほどの物よりも暗く、強い鼓動。
〈何をモタモタ悩んでいるんだ?〉
――なっ! お前は誰だ?
〈私? 私の事などどうでも良い。敢えて言うなら、お前の本質と言ったところか〉
――私の本質だと?
〈そんなことより、お前の力を持ってすれば、奴等など一瞬で消してしまえるだろう〉
――力?
〈そうだ、生まれ持って身についている力〉
――力など存在しない。私には何も無い、彼を、私を庇ってくれる者すら守ってやれぬ
〈それは、封印されているからだ。まだ、お前は力を扱うには幼すぎるからな。だが、強く望めば、歴史上類を見ないほどの、お前の強大な力が解放されよう〉
――そ、それで、彼を守る事ができるのか?
〈力に呑み込まれず、己を保てたならな〉
――聞いた事がある、我々の種族の生き残りがなぜ少ないのか。何故『恐慌』と恐れられてているのか。……そういうことか。だから、父や母は力を解放していないのだな
〈そう言う選択肢もある。だが、今のままなら、お前は確実に2つの物を失う。少年の命と、自身の命と。解放すれば、少なくとも1つは手に入れられるぞ〉
――しかし……
〈ふむ。確かに、仮に制御できたとしても、力を持った者は、王国では排除対象だ。だから、お前の両親は力の話をしなかったのだろう。だが、良いことを教えてやろう。お前はそれを『波動』と言えばよい、今、王国では、軍事目的で波動が研究されている。やがて実用化されるだろう。なに、うまくやれば見た目は変わらんよ〉
「ねえねえ、兄ちゃん。これ」
少女の視界の端で、先ほどの少年が折れ曲がった鉄の杭を差し出す。
「おっ、サンキュー。こいつ、しぶとくて、ちょうど手が痛くなったところだ」
6年生は楽しげに呟くと、少年から杭を受け取り、思いっきり振り上げた。
メシッ
異様な音に遅れて、少女の首筋に生暖かい物が流れてくる。
「――!」
(おいっ!大丈夫かっ?)
少女は自分の首筋を伝って地面に落ちる赤い物を確認すると、突然意識が覚醒した。
(身体が、変な……。ごめん……ね。守っ……)
同時に、拓磨の体重が全て少女にかかる。
2つの物を失うか、少なくとも1つを手に入れるか
少女の中で、何かが切れた。
――私は! ……私は、2つとも手に入れてやる!
拓磨をそっと下ろし、少女はゆっくりと起きあがった。
「?」
少年達が怪訝そうな顔をする。
既に、拓磨に対し致命傷を負わせていることを理解するには、少年達は幼すぎたのだが……。
「お前ら、……ただで済むと思うなよ」
血痕を付けた少女が半眼で睨み付け、低い声で恫喝すると、一瞬少年はたじろいだが、相手が鎖でつながれていることを思い出し、口の端を上げた。
「ただですまないのはお前の方だっ」
少年は、杭を思いっきり振り下ろす。
瞬間、辺りが青白い光で満たされた。




