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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第5章]過去と現在(いま)と……
52/64

(2)-3

 そのまま6年生はサッカーボールを蹴るように、拓磨の腹を蹴り上げる。

「ぐっ!」

 激しい痛みと吐き気が拓磨の身体を駆けめぐる。

「やめろっ! お前達の獲物は私だろう!」

 少女が制止する。

「おい、こいつ喋ったぞ!」

「関係ないし。……おい、お前、誰に命令しているんだぁ?」

 驚く1人にかまわず、もう1人の6年生が少女に拳を振り下ろす。

「がっ!」

 鈍い音と共に少女が転がっていき、鎖に引っ張られて止まる。

「や、やめてよっ!」

 少女の声に我に返ると、拓磨は痛みをこらえ、少女に覆い被さる。

(ばかっ! 何で逃げない。お前もひどい目に遭うぞっ)

(出来ないよ!)

「おもしろい!」

「一緒にやっちまえ!」

 再び拓磨を蹴り上げる。

 しかし、拓磨は少女を抱きかかえたまま動かない。

 拳が振り下ろされる。

 しかし、拓磨は少女を抱きかかえたまま動かない。

 少女は、沸き起こる震えを抑えられずにいた。

(怖いの? 大丈夫。僕が……守ってあげるから。多分、隼がマ……マを呼んできてくれるから、それまで……の辛抱だよ)

 殴られながらも少女を気遣う拓磨に、少女は大きく頭を振る。

 ――違う違う! 怖いのではないっ!

 ――何故だ! 何故お前は、私のためにそこまでする? 人間とは異質を排除する生き物。それは自然の理なのに……

 少女の目から、熱いものが滴り落ちる。

 何をされても、泣くことなど無かった。

 痛みなど、少しの間我慢すれば無くなる。

 無能な連中に少々辱められようと、誇りを忘れなければ耐えられた。

 心の面で、精神で負けてはだめなのだ。それが負けない限り、自分を保てるのだ。

 ――なのに、こいつはっ!

 ――くそっ、何が誇り高きコーヌ族だっ。

 ――何が、この世を恐慌に陥れた、最も恐れられている種族だ!

 ――私は無力だ!

 ――私にっ、私に力があればっ!


 ドクン


 再び、少女の身体の奥で鼓動がする。

 しかし、今度は先ほどの物よりも暗く、強い鼓動。


〈何をモタモタ悩んでいるんだ?〉


 ――なっ! お前は誰だ?


〈私? 私の事などどうでも良い。敢えて言うなら、お前の本質と言ったところか〉

 ――私の本質だと?

〈そんなことより、お前の力を持ってすれば、奴等など一瞬で消してしまえるだろう〉

 ――力?

〈そうだ、生まれ持って身についている力〉

 ――力など存在しない。私には何も無い、彼を、私を庇ってくれる者すら守ってやれぬ

〈それは、封印されているからだ。まだ、お前は力を扱うには幼すぎるからな。だが、強く望めば、歴史上類を見ないほどの、お前の強大な力が解放されよう〉

 ――そ、それで、彼を守る事ができるのか?

〈力に呑み込まれず、己を保てたならな〉

 ――聞いた事がある、我々の種族の生き残りがなぜ少ないのか。何故『恐慌』と恐れられてているのか。……そういうことか。だから、父や母は力を解放していないのだな

〈そう言う選択肢もある。だが、今のままなら、お前は確実に2つの物を失う。少年の命と、自身の命と。解放すれば、少なくとも1つは手に入れられるぞ〉

 ――しかし……

〈ふむ。確かに、仮に制御できたとしても、力を持った者は、王国では排除対象だ。だから、お前の両親は力の話をしなかったのだろう。だが、良いことを教えてやろう。お前はそれを『波動』と言えばよい、今、王国では、軍事目的で波動が研究されている。やがて実用化されるだろう。なに、うまくやれば見た目は変わらんよ〉

「ねえねえ、兄ちゃん。これ」

 少女の視界の端で、先ほどの少年が折れ曲がった鉄の杭を差し出す。

「おっ、サンキュー。こいつ、しぶとくて、ちょうど手が痛くなったところだ」

 6年生は楽しげに呟くと、少年から杭を受け取り、思いっきり振り上げた。


 メシッ


 異様な音に遅れて、少女の首筋に生暖かい物が流れてくる。

「――!」

(おいっ!大丈夫かっ?)

 少女は自分の首筋を伝って地面に落ちる赤い物を確認すると、突然意識が覚醒した。

(身体が、変な……。ごめん……ね。守っ……)

 同時に、拓磨の体重が全て少女にかかる。

 2つの物を失うか、少なくとも1つを手に入れるか

 少女の中で、何かが切れた。


 ――私は! ……私は、2つとも手に入れてやる!


 拓磨をそっと下ろし、少女はゆっくりと起きあがった。

「?」

 少年達が怪訝そうな顔をする。

 既に、拓磨に対し致命傷を負わせていることを理解するには、少年達は幼すぎたのだが……。

「お前ら、……ただで済むと思うなよ」

 血痕を付けた少女が半眼で睨み付け、低い声で恫喝すると、一瞬少年はたじろいだが、相手が鎖でつながれていることを思い出し、口の端を上げた。

「ただですまないのはお前の方だっ」

 少年は、杭を思いっきり振り下ろす。

 瞬間、辺りが青白い光で満たされた。


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