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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第5章]過去と現在(いま)と……
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(2)-2

「なんだお前」

 少年が睨み付ける先に、少女の前で両手を広げ、同じように少年を睨む拓磨の姿があった。

「やめろ! 痛がっているじゃないか!」

「何でやめるんだ? 桃太郎は鬼退治をするんだぞ?」

「桃太郎は、弱い物いじめなんかしないぞ!」

 声を荒げる拓磨を手で押しのけ、再び棒を振り下ろそうとする少年。

「やめろって言ってるだろ!」

 拓磨は少年の手から棒を奪い取り、思いっきり草むらの方に放り投げた。ついで少年を突き飛ばす。

「ってぇ~」

 尻餅をついた少年は苦痛に顔をゆがめる。

「お前がやめないからだ」

 拓磨が少年を見下ろすと、少年は1度拓磨を睨み上げ、立ち上がった。

「おい、いくぞ!」

 他の少年を促し、乱暴に草を踏みつけながら歩いていく。

「兄ちゃんに言いつけてやる!」

「おぼえてろ!」

 捨て台詞が木霊し、やがて、少年達の姿が見えなくなった。


「まったく……、なあ、隼?」

 拓磨は辺りを見渡し、唖然とした。

「……あいつ、逃げやがったな」

 今になって、いつの間にか隼が姿をくらましていたことに、拓磨は気づいた。

「逃げるなら、声かけてくれればいいのに……」

 拓磨は呟くと、気を取り直し、少女の前に腰を下ろす。

「お前、逃げた方が良いぞ」

「わっ! 喋った!」

 いきなりの少女の台詞に、思わず後ずさる拓磨。

「当たり前だ。我々と、お前達の先祖は同じだ。言葉を喋れるのは当然だ」

「ふーん」

「それよりも、お前、時間がない。早く逃げろ。奴らは、兄とやらを連れてくるのであろう。我々の世界でも、兄とは強大な力を持つ。お前の手に負える相手では……」

「痛かった?」

 拓磨は、そっと少女の髪をなでる。

「なっ! ひ人の話を聞いているのかっ?」

「ねえ、痛かった? ってば」

「……少しな」

 少女はむくれた表情をしたが、拓磨の手を振り払うことはしなかった。

「君、家はどこ?」

「わからない」

「ふーん」

「お前、変わったやつだな」

 少女は、頭をなでる拓磨を上目遣いに見る。

「ねえ、名前何て言うの?」

「!」

 何て事はない他愛のない質問に、少女が硬直する。

「ねぇ、名前なんて言うの? ってば」

 少女は拓磨の腕を掴むと、ゆっくりと下ろし、拓磨を凝視した。

「お前、私の真名を聞くことが、どういう意味か分かっているのか?」

「だって、名前知らなきゃ友達になれないじゃん」

 少女の鼓動が跳ね上がる。

「と、友達ぃ? わわ私はこれだぞ! お前まで同じ目に遭いたいのか?」

 少女は自分の角を指さすと、拓磨を睨む。

「えー? だって、その角、可愛いじゃん。茶色の髪の毛も僕は好きだよ?」

 どこまでも邪念のない拓磨の笑顔と言葉に、少女は自分の顔が火照るのを感じた。

「か、かわ……? お、お前、おかしいぞ!」

「そう? ……じゃあなくって、な・ま・えっ」

 少女は拓磨を見つつ、まあ、いいか、仮に相手が私を真名で呼んでも、私が相手を真名で呼ばない限り、契約は成立しないのだからな……と自分に言い聞かせる。

「わかった。でも、絶対秘密だぞ。私の真名は……」

 拓磨が頷くと、少女は拓磨の耳元で囁いた。

「ふーん。きれいな名前だね。エリ……」

 少女は慌てて拓磨の口をふさぐ。

「ばっ、ばかっ! そんな大声で真名を口にするなっ!」

 しかし、少女の身体の奥底で、ドクンと鼓動が起こり、契約の半分が終了したことを悟った。

「でね、僕は拓磨だよ~」

 ――ど、どうせ、私はここで死ぬのだ。契約など無効であろう

 屈託のない笑みを浮かべる拓磨の前で、少女は再び自分に言い聞かせた。


「おい、いたぞっ!」

 がさがさという音に慌てて拓磨が振り向いた視線の先で、身長140センチぐらいの大柄な少年が、2人近づいてくる。

「あっ、6年生だ!」

 拓磨は何を思ったか、少女の首輪を引っ張る。

「何をしている?」

「だって、逃げなきゃ」

「無駄だ」

「だって……」

 なおも首輪を外そうとする拓磨。

「鍵が無いと無理だ。それに、これは金属製だ。子供の力ではどうにもならない」

 少女は、首輪についている南京錠を摘んで見せる。

「どうしよう」

「だから、お前は早く逃げろ!」

「出来ないよっ!」

 いきなり拓磨が引っ張り上げられた。

「おい、お前か? 弟を突き飛ばしたやつは」

「だって、弱い物いじ……」

 瞬間、拓磨の目から火花が飛ぶ。

 そのまま少女の足下に倒れ込み、拓磨は自分が殴られたのだと分かる。

 途端に足ががくがくと震え出す。

「鬼をかばうやつは、鬼だ。鬼は退治しないとなぁ」

「退治しろ~」

 拓磨が視線を動かすと、6年生の後ろで、先ほどの少年達がにやにや笑いながら、拓磨を見下ろしていた。


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