表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
5/64

(1)邂逅

「さあ! 走者次々に第4コーナーを曲がりましたっ! 先頭を走っているのは……イチネノオークス! 続いて、センパブライアン!」

 ヘルメットが激しく上下する。

 額を流れる汗が、初夏のじわじわとした暑さを、観戦している者にも伝えている。

 誰もが、我先へとゴールに向かう。

 荒い息づかい。

 ギャラリーが身を乗り出して応援している。

 音楽……と言うにはとても単調で、ゆっくりとしたメロディーが空間を満たしていく。

 ……と、にわかに歓声が上がった。

 集団の後ろの方から、常識はずれのスピードで追い上げてくるものがある。

「あーーっと! 先頭走者残り2ハロンのところで、最後尾から追い上げが来ましたっ! レースの流れが大きく変わっています! あれはっ! タクマバーミンガムだっ!」

「……ばっかみたい」

 歓声を上げているギャラリーの脇で、結城千紗は、醒めた目で事の成り行きを見守っていた。

「速い速い! 何というスピード! 何というパワー!ただいま、5位…いや、4位、なおも追い上げ中! ここは、最初から本気出せよ、と言うべきでしょうかっ!」

「おおっ! 相変わらずやつの追い上げはすごいな。今日も大穴かな?」

 千紗の横で、これまた事の成り行きを見守っているのは、山根晋である。

「最初から走ってこいって言うのよ。全く」

「まあ、そこが拓磨の良いところだから」

 しかし、晋の冗談に取り合わず、再び千紗は醒めた目を外に向ける。

「タクマバーミンガム! 先頭に躍り出たっ! 続いてイチネのオークス、センパブライアン!」

 ほとんど、先頭は横一列に近い状態で走っている。

「タクマバーミンガム速い! イチネのオークスも追い上げる! タクマバーミンガム! イチネのオークス! ……ゴールイン!! えー、こちらからは、タクマバーミンガムが逃げ切ったように見えましたが……あっ、審査員が出てきました」

「微妙だな」

 レースに似つかわしくない、かなり間の抜けたメロディはいつの間にか終わっている。

 晋は、腕時計をちらりと見た。

 再び、ギャラリーにどよめきが起こる。

「あーーーっと! 判定結果が出ましたーーっ! 『遅刻』です! タクマバーミンガム本日もセーフなりませんでしたーーっ! と言うことは……本日で9回目! あと1回で便所掃除です! なお、タクマバーミンガムは、現在、手帳指導を受けている模様です。本日の実況は、山口がお送りしました」

「ほんと、ばっかみたい」

 まだ余韻が残っているギャラリーを後目に、千紗は一言だけ漏らすと、すたすたと席に戻っていった。



 ここは、県立春日高校。創立10年。割合新しい高校である。

 別に伝統校と言うわけでもないし、エリート校でもない。

 ただ、教師の余りある情熱のおかげか、その何でもない高校から、毎年数百人が有名大学へ進学していく。まさに、学年の8割がその栄冠を勝ち取るのだ。

 しかし、その学校には、そんなことよりも、他校にないユニークな特徴がある。

 先ほどの、タクマバーミンガムこと櫻井拓磨が受けている『手帳指導』がそれである。

 自動車運転免許には点数があり、違反をする毎に減点、切れれば免許停止、と言うルールは免許を持っていない人でも知っているであろう。

 それに近い制度が、件の手帳指導である。

 遅刻、ノーヘル、自転車の無灯火、信号無視……。

 それぞれ1点ずつ減点され、10点目で便所掃除、その後、5点復活し、また使い果たしたら、校長の訓告、そして、次は保護者召還である。

 まあ、とはいえ、ほとんどの生徒は、そんな羽目に会うことはまず無いであろう。

 ごく普通の高校生活をしていれば、手帳指導のご厄介になることなど無いのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ