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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第4章]エリス
47/64

(4)-3

「まさか……」

 今までの流れから、『そのこと』の内容は何となく解った。

 拓磨の視線が、宙をさまよう。

 だが、そこには拓磨の想像を否定してくれ、不安を解消してくれる物は見つからない。

 拓磨の両手が、じっとりと汗ばむ。

 ――嘘だ! そんなこと、あるわけ、無い!

 ――エミリ、違うと言ってくれ!

 救いを求めるように、再びエミリを見る拓磨。

 そんな拓磨の様子を見ながら、エミリは息を吸い込むと、突然早口になる。

「自分の行動が部隊にどういう影響を与えるのか理解した上で、中将は、あり得ない選択を、ここに駆けつけるという選択をした。拓磨の母親を考慮に入れなかったのは自分の落ち度だと、そして……」

 エミリの息が荒くなる。

「単独行動をとった拓磨1人を助けたい一心で、敢えてリスクを冒しタケトの部隊を危機に曝したのだっ。中将は、一体どうしてしまったというのだろうな!」

 最後は吐き捨てるように、エミリ。

 拓磨は、自分の中で否定し続けていた、最後の砦が崩れていくのを感じた。

「僕が、……エリスをそんなふうにしてしまったと言うのか?」

 拓磨の問いに答えず、黙り込んでいたエミリは、突然明るい声を出し、付け加えた。

「まあ、それでも良いじゃないか。実際、私もタケトも、中将としてではなくエリスという個人の応援をする意味で、敢えてリスクを背負うことに同意したのだ。本当に、……私達はどうしてしまったというのだろうな。作戦行動中だというのに」


 次々に知らされる真実に思考が追いつかず、言葉を失い、エミリを見つめる拓磨を見、『そうだ』と小さくつぶやいた後、言葉を続ける。

「拓磨の母親は、今日この日が来ることを覚悟していたはずだ。何故なら、彼女は神官の娘なのだからな。我々のことも知っていたのだろう。我々の国は、彼女の父親に当たる神官とは、交流があったからな。まあ、〈鍵〉の持ち主が、よもや神官の孫とは、だれも予想しなかったがな」

「え? じいちゃんと? 母さんも……知っていたの?」

 初めて聞く事実に、拓磨は顔を上げる。

「おかしいと思わなかったのか? 一人息子が1週間以上も家に帰らないのに、騒がない母親が居るわけ無いだろう?」

「それは、だって、……電話したから」

「『友達の家に泊まる』か? 私が母親なら、真っ先に友達とやらの家に確認するな」

「……」

「エリス中将と拓磨の母親は、何らかの手段で連絡を取ったはずだ」

「!」

 あのときだ、と、拓磨は、エリスが突然拓磨の家に押しかけたときのことを思い出す。

「拓磨の母親も、自分の所に置くよりも、中将のそばに置いた方が安全だと考えていたのだろう。そして、母親は、自身の危機の時に、敢えて中将に連絡をしなかった。何故だか分かるな?」

 エミリは立ち上がり、拓磨の肩をぽんと叩く。

「話はここまでだ。拓磨にとっては迷惑な話だろうな。ただ、初めて任務より大事だと感じてしまった相手のために、それに気づいてしまったために、自分を犠牲にして、全てを失うリスクを冒して、結果嫌われてしまったのでは、あまりに中将が浮かばれないからな。まあ、私は、論理的思考より感情思考が優先する、しがない人間だから、同姓のよしみと言うことで、中将が望んでもいない種明かしをペラペラ喋ったということだ」

「何で……エリスは無事じゃないか。また、今まで通り作戦を立て、これからも……」

 エミリは宙を見つめたが、ゆっくりと拓磨を見下ろした。

「中将の今回の行動は、国家反逆罪に該当する。無論、我々は誰1人証言しないが。中将自身が、軍法会議部に出頭するであろう。元々中将は、自分自身の進退や生死にまったく執着がなかった。そして、唯一得ようとしたものからは嫌われ、もう、中将をこの世に留めておくものは、何も残っていないだろうからな。……多分、今頃は、自身の身と引き換えに、全面撤退の許可を本国に取っていることだろうな」

 ここで、エミリはクスリと笑った。

「そうだな、むしろ、この1週間が、何ていうか、……おかしな表現だが、中将は唯一人間らしかった。生き生きとしていたな」

「!」

 拓磨は、頭の天辺から一気に血が下がっていく感覚に襲われる。

 既に、拓磨の『想像』を否定する材料は何も残されていなかった。

「まあ、続きは自分自身で考えて、行動を決めてくれ。中将のことだ、拓磨に降りかかる危機を食い止めるため、恐らく拓磨を部隊から遠ざけるであろう。晴れて自由の身になれるというわけだ。いつからか、……恐らく、〈鍵〉が拓磨のことだと判ったときからだろうな、中将は〈鍵〉を使うつもりがなかったのかも知れないな」

 エミリは2、3歩歩き始めると、思い出したように振り向き、

「それから、……先ほどは、殴ってすまなかった。中将と違って手加減はしたつもりだがな」

 微笑みながらそう言うと、玄関から外へ出て行った。



 しばらく放心状態のまま虚空を眺めていた拓磨は、ふと携帯電話の着信ランプが点滅している事に気づく。

 背面の表示板には、『メールあり 5件』と表示されていた。

 先ほど下がった血が一気に頭を駆けめぐり、慌ててメール画面を選択する。

『母より (1/5)』

 拓磨の鼓動が早くなり、震える手で本文を選択する。


『このメールが届いていると言うことは、私はもう、拓磨のそばに居てあげられないと言うことです。

 ただし、引き続き、世界のバランスを取り戻すという大儀を実行するために、その身に余る大役を冷静に遂行しようと苦しんでいる人がいます。

 今日のこの日のことは、私のことは必然です。時期の違いはあれど、いずれは訪れていたことです。誰の責任でもありません。

 拓磨は人を恨まず、このメールをよく読んで、何が大切なのか考え、次の行動をしなさい。

 その人を助けられるのは、私達の世界の感性を持ち、選ばれた人間だけ、そう、今はもう拓磨だけなのですから』


「母さん……」

 拓磨の視界が滲んでいった。


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