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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第4章]エリス
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(4)真実

 円陣がひときわ強い光を発すると、辺りに静けさが戻る。

 しばらく鳴き止んでいた虫が、再び空間をそれぞれの音で満たす。

「拓磨」

 声に拓磨が顔を上げると、エミリが手を差し出していた。

 拓磨は目を反らし、エミリの手を握る。

「僕は謝らないぞ。殺すなら殺せよ」

 エミリは拓磨を立ち上がらせると、口元に笑みを浮かべる。

「いや、命令だからな。拓磨を処分することは出来ない。……残念ながらな」

「……」

 拓磨は赤く染まったつばを吐き捨て、そのまま地面を眺める。

 口の中が鉄の味で満たされ、時折鈍い痛みが襲う。

 その様子を見ていたエミリは、小さくため息をつき、再び口を開いた。

「残念ついでに、面白い話を聞かせてやろう」

「悪いけど、笑う気分じゃないんでね」

 拓磨は地面を睨んだまま呟く。

「聞くか聞かないかは拓磨の自由だ。だが、聞かなかった場合、君は一生後悔することになるかもしれないな。まあ、聞いたとしても、後悔する可能性はあるが」

「何なんだよ」

 拓磨はエミリの意味深な言葉に顔を上げた。

 エミリは、あごで玄関を示し、拓磨を促す。

 拓磨は首を傾げながら、エミリについて自分の家の玄関へと向かった。



 エミリは、拓磨が自分の隣に腰を下ろすのを確認すると、ぼんやりと宙を眺めながら、呟いた。

「まず、タケトは……タケト大佐は、……おそらく、助からないだろうな。無論、カイ中佐もだが。『殲滅される前に破壊陣を使用する。だから、心配無用』と言っていたからな」

 拓磨の身体を、衝撃が突き抜ける。

「さっきのは、僕の知らないコードだ。そういう意味だったのか」

 何となくその言葉から、タケトが何をしようとしているのか、想像がついた。

「な~にが『心配無用』、だ。あの大バカ野郎が。……最初からそのつもりだったのだ」

 エミリは呟くように付け加えると、拓磨を見た。

 その表情は、笑っているように見えたが、肩が小刻みに震えていることに気づく。

「じゃあ、なんで、……駆けつけないんだ? って顔してるな。エリス中将は、もう駆けつけても間に合わない、それよりも、さらなる犠牲の発生を防ぐことが責務だ、と考えているのだ。……2度目の判断ミスは、もう許されないとな」

 エミリは軽く息を吐いた。

「解ってはいるんだ。中将は……いつも、いつでも、時には冷酷ささえ感じる。だが、その判断は常に正しく、おかげで、中将と作戦行動を共にする兵士に、反逆者を除き、未だかつて犠牲者が発生したことはない。誰かに嫌われても良い、恨まれても仕方がない、自分の部下を1人犠牲にするよりはましだ。国益を守るという成果を上げ続けている以上、誰も公式に批判は出来まい、と、全責任を1人で背負いつつ、我々では、とても耐えられない判断をしてきたのだ。無論……」

 ここで、エミリは表情を改める。

「私は、現時点でも中将を信頼しているし、慕っている」

「……」

 拓磨は、エミリが何を言わんとしているのか、必死に考えていた。

 エミリは、視線を宙に戻す。

「……しかし、私は、こちらの世界に来てから、様々な『不思議』に遭遇してきた」

「……」

「エリス中将のことだ」

『来た!』拓磨は身構えた。

 その心の動きが、強ばった表情に表れる。

「まあ、そう構えなさんなって」

 エミリが笑みを浮かべ、拓磨を見る。

「我々は、中将とは、長い付き合いだが……、いや、私は回りくどい話が嫌いでね。端的に話すことにする」

「……」

 無言の拓磨を見、エミリは、ため息をついた。

「結論から言うと、拓磨の連絡を受けた時点で、中将は、拓磨の母親が既に殺されているであろう、つまり、絶対間に合わないということを判っていた」

「!」

 拓磨の顔に驚きの表情が映る。

「そんな馬鹿な! とでも言いたげだな」

 エミリは拓磨の顔をのぞき込んだ。

「だって、だったら何でエリスがここに、じゃあタケトだって、……第一、何でそんなことが分かるんだよ」

 もしそうなら、エリスがここに来たことが矛盾している。拓磨は、エミリを見返す。

 エミリは、クスリと笑った。

「ここまで来たら、はっきり言おう。我々の任務は、『拓磨の警護と移送』などではない」

「?」

 拓磨の鼓動が早くなる。

「正確には、拓磨が持つ〈鍵〉を発動させ、〈狭間〉を正常化させることが真の任務だ」

「だ、だって、初めて会ったときに、エリスは確かに言ったぞ『警護と移送』だって」

 再び聞きなれない言葉に突っ込む余裕もなく、目眩を感じながら反論する拓磨に、エミリは何度も頷いた。

「そう、そこなんだよ。中将の不思議の始まりだ」

 エミリは一息つき、玄関の外を見た。

 兵士達が、敵の遺留品を集めている。


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