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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第4章]エリス
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(3)-2


 ジュゴッ


 奇妙な物音に拓磨が恐る恐る目を開くと、先ほどの女性だった物が右手を突き出した形のまま、炭化していた。

 真っ黒な身体から、白煙が立ち上っている。

「拓磨っ!」

 拓磨が声の方へ振り向くと、エミリが走ってくる。

 その後ろに、険しい顔つきで右手を突き出し、肩で息をしているエリスが見えた。

 左手は、次の攻撃に備えるためであろうか、スカートのポケットに入っている。

「拓磨、もう大丈夫だ。あと少し遅かったら……」

 エミリは屈むと、安堵の表情を浮かべ、しかし、拓磨の脇に視線を移した瞬間、息を呑んだ。

「……酷いことを」

 ザッという音に拓磨が顔を上げると、エリスが拓磨の前に立っていた。

 逆光のため、表情は分からない。

「少尉。……け、怪我はないか?」

 以前、学校でエリスの制止を振り切ったときに、拓磨を殴りつけた時とはうって変わって弱々しい声。あのときの声が、怒りを含んでいたとすれば、今の声は……。

 エリスに殴られることを一瞬覚悟した拓磨は安堵し、その瞬間、自分の中で精神のバランスが大きく崩れるのを感じた。

 まずい、と拓磨は思ったが、その理性は一瞬で、内から沸き上がる物によって支配されてしまった。

 しかし、その様子にエリスは気づかない。

「少尉、大佐が危ない。……時間がないのだ。帰――」

 一瞬、エリスは自分の身に何が起こったか理解できなかった。

 拓磨に手を差し出した瞬間、ものすごい衝撃がエリスの身体を襲い、自分が宙を舞っていることに一瞬遅れて気づいた。

「お前さえっ、お前さえいなければっ!」

 拓磨は両手を突き出す格好で、エリスを睨み付ける。

 地面に尻餅をつき、驚愕の眼差しで拓磨を見上げるエリス。

 その表情は、『しまった』という感情ではなく、言うなれば、まるで、捨てられた子犬のよう。

 初めて見る表情。

 しかし、今の拓磨には、その表情ですら怒りを増大させてしまう。

「おい! 何とか言ってみろよ! 中将!」

 怒りのあまり、エリスの名を呼ぶ事すらはばかられる拓磨。

「!」

 エリスの顔に、再び動揺が走る。

 エリスは口を半開きにしたまま、何も答えない。

 そんなエリスが、今の拓磨には余計に腹立たしい。

「貴様っ! 中将に向かって!」

 その様子に激高した若い兵士が、剣を抜くと拓磨に斬りかかる。

「上等だ。殺せばいいさ!」

 拓磨は口の端を上げ、兵士の方を見た。


「やめろおぉっ!」


 ほぼ悲鳴に近いエリスの声で、兵士は動きを止め、エリスを見る。

「しかしっ! これは、明らかに反逆行為です!」

「彼を……処罰してはならぬ」

 押し殺すような声を出すエリスの視線の先で、青白い光が立ち上り、兵士が現れた。

 鎧の間から滴り落ちる赤黒い液体が、向こうで何があったのかを容易に想像させる。

「中将! タケト大佐より伝言!『我、季節はずれの大掃除が必要となり、先に行く、なお、その効果はランクDと確認済み』です」

 その言葉に、エリスは僅かに表情を動かしたが、

「ご苦労。……もう行っても無意味であろう。大佐もそれを望まないはずだ。それより、大佐が残してくれた情報を基に、作戦を立て直すことが先決だ。貴殿は、キャンプに戻り、手当を受けろ」

そう呟き、兵士を下がらせた。

「中将! 先ほどの今です、今から行けば、まだ……」

 エミリの叫びに、エリスは無表情で答える。

「いや、もしそうなら、大佐はもっと詳細に情報を伝えている。位置情報も送ってこないと言うことは、大佐自身が『来るな』と意思表示をしているということだ」

「しかしっ……」

 エミリは食い下がる。

 エリスは、小さく息を吐く。

「少佐、今から大佐の部隊を探し出し、かつ、大佐を助けることは、……不可能だ」

 その言葉に、エミリは息を呑み、うなだれた。

 拓磨は、こんな場面でも、あくまで事務的に物事を進めようとするエリスの態度に、怒りが憎しみに変わる。

「何が不敗だ? え? 中将様よ。結果、母さんは殺され、タケトの部隊は苦戦か? 聞いて呆れるよ! 一体どんな作戦を――」

 次の瞬間、拓磨の意識が途切れた。

 気づくと、視界が反転しており、怒りをあらわにしたエミリが、拳を振りおろした状態で、拓磨を睨み付けていた。

「貴様! 言葉が過ぎるぞっ! お前にっ……お前に、何が分かるっ!」

 そのまま、エミリは何かを叫び、拓磨に飛びかかり、拳を振り下ろす。

 拓磨は抵抗することも出来ず、中途半端に顔をかばった状態でエミリの攻撃を受ける。

 次々に振り下ろされる拳と共に、透明の液体が落ちてくることに気づき、拓磨は痛みより驚きを感じていた。

 ――常に冷静沈着なこの部隊が、一体どうなってしまったんだ?

「少佐! やめろっ! やめてくれ!」

 エリスはエミリの腕を掴み、制止すると、拓磨をちらりと見、再びエミリの方を向く。

「良いか、命令だ。少尉を罰してはならぬぞ。私は……キャンプに戻る」

 それだけ言うと、エリスはよろよろと歩いていき、青い光の中に入っていった。


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