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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第4章]エリス
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(2)-2


「カイ中佐より報告!『我、敵の殲滅に成功。当方犠牲者は、皆無』以上です!」

 作戦室の入り口で、伝令兵が叫ぶ。

「ご苦労! 引き続き、警戒を怠るな、と伝えてくれ」

 タケトは入り口に向かって言うと、口の端を上げた。

「中将の読み通りですな。とりあえずは一安心ですか」

 タケトは〈石〉を拓磨の両腕につけながら、エリスの方を見る。

「まだ……3カ所有る。それに、……やたら敵が弱すぎるのが気にかかる。何か策があるのか……」

 エリスは、地図からシールを1つ取り除きながら呟く。

「それは、中将のシールドがあるからでしょう。敵には申し訳ないぐらいです」

 タケトは立ち上がると、おどけて言った。

 タケトの横では、拓磨がハンドブックを膝に置いたまま、ぼんやりしている。

 ――いつもは練習しているのにな、今日は、どうしたというのだ?

 エリスは拓磨の様子に不自然さを感じたが、それが何なのか特定出来ない。

「少し、外の様子を確認してきます」

「ああ、頼む」

 あんな事があった後であるから、無理もないのだろうが……と、タケトの言葉に曖昧に頷きながら、エリスはため息をつく。

 拓磨が何かを言いたげに顔を上げたが、エリスと視線が合うと、慌てて本に視線を戻した。

「少尉。私は、……怒ってなどいない。だから、気にするな」

 タケトが出て行くのを確認すると、エリスは、ため息混じりに言う。

「……うん」

 拓磨は頷くが、相変わらず落ち着きがない。

「少尉。……何か言いたいことがあるのではないか?」

 長年の経験であろうか、やはり拓磨の様子に引っかかるものを感じ、問いかけるエリスの言葉に、拓磨は、はじかれたように顔を上げた。不安が的中したことをエリスは悟る。

「あの……、電話が」

「電話?」

 拓磨は頷くと、ハンドブックを閉じた。

「うん。母さんから……。だけど、変なんだ」

「変?」

 拓磨は、自分でも何が言いたいのか、まとまっていないようだ。

 だが、エリスはこういう場合のやりとりを心得ている。相手が言いたいことをうまく言えない場合、相手の言葉を繰り返し、話を促す。決して、こちらの意見を押しつけてはならない。

 仮にも八千人を超える部下を扱っている経験で会得した物である。

「うん。何か、家に千紗が来ててさ、僕に会いたいって言ってるって。変だよね」

「そ、それは! ……あ、いや、……会いたいと言うのが変なのか?」

 ――まただ!

『千紗』と言う単語に、エリスの身体の中で何かがざわざわとし、危うく思考を持って行かれそうになるが、何とか理性で押さえ込む。

 ここで、拓磨は、エリスに大前提を説明していなかった事に気づいた。

「あ、エリスには言っていなかった……というか、言う必要がなかったんだけど、実は、エリスが来る少し前に、僕、千紗に振られているんだよね」

「!」

 その言葉に、何故か、エリスの身体が温かくなる。

 と同時に、通常の思考が完全に復帰し、エリスの中で警報が鳴る。

「千紗の性格はよく分かっているからさ、今更会いたいなんて……」

「何時の話だ!」

 拓磨の言葉を遮り、エリスは立ち上がる。

 机の上の書類が、何枚か空を舞って落ちた。

「え? あ、……えと」

 いきなりの物音に、拓磨はびくっとなる。

「少尉! その電話は何時あったのだ」

「あ、あの……今朝方」

「今朝方? 時間は?」

「え、えっと、7時頃に……」

 そう言い、エリスを見た拓磨は、再び言葉に詰まる。

 昨日のような怒りに支配された顔。しかし、昨日のように拓磨を殴ることはしなかった。

「何故……そのときに報告しない?」

 うって変わって静かな声。

 逆に静かな声が、怒りの深さを感じさせる。

「え、エリス?」

「何故! すぐに報告しなかったのかと聞いている!」

 エリスは、大声を上げ両手で机を叩く。

「あの……、その、エリスが、……怖かったから」

「!」

 手で顔をかばいながら、消えそうな声で呟く拓磨の姿に、エリスは息を呑んだ。

 そして、身体の中を様々な思考や、普段流れることがない感情が駆けめぐる。


「中将! 何事ですか?」

「中将、どうしました?」

 エリスの叫び声を聞きつけてか、慌ただしくタケトが入ってくる。遅れて、エミリも中の様子をうかがう。

 2人を見、エリスは何とか冷静さを取り戻した。

「……少尉の自宅に、奴らが」

「!」

 エリスの呟きに、エミリは息を呑み、タケトは『何てこった』と、天を仰ぐ。

 エミリは、床に落ちている書類をさっと拾い上げると、テーブルに置いた。

「すぐに……」

 タケトが慌てて外へ向かおうとした瞬間、エリスが制止する。

「いや、大佐、もう遅い。由依殿は、もう……。その連絡は5時間前だ」

「拓磨、何ですぐ中将に言わなかった?」

「い、いや、その件は、……私の責任だ」

 拓磨に言うタケトを見、エリスは目を伏せた。

「もう遅いって何? 母さんに何があったの?」

『くそっ!』と吐き捨てるタケトの横で、エリス達の会話に不穏なものを感じ、拓磨がエリスに問う。

 エリスは黙ったままだ。


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