(2)中将
まだ外は薄暗い。
作戦室で、エミリと湯気の立つカップを傾けていたタケトは、入ってきたエリスの姿を見るやいなや、思わずむせ返る。
エリスは、白色のカッターシャツに紺色のスカート、黒のハイソックス姿で、作戦室に入ってきたのである。
慌ててカップを机に置き、呼吸を整えると、タケトは声をかけた。
「中将! 申し訳ありません。すぐに服を用意させます!」
――主計科の連中、何やってるんだ!
タケトは、外に向かって声を上げようとする。
「大佐、必要ない」
エリスは片手を挙げ、タケトを制止する。
「そういえば、もう学校はないのであったな。うっかりしていた」
エリスは呟きながら、作戦室の机についた。
――うっかりって……
タケトは心の中で突っ込んだが、とりあえず、服が用意されていなかった訳ではないと判り、安堵のため息をつく。
「まあ、服装など作戦に影響ないであろう。大佐、現在の状況を説明してくれ」
エリスはタケトを見上げた。
タケトとエミリは顔を見合わせ、その後、タケトが咳払いをし、説明を始める。
「現在、最前線では一部戦闘が始まっておりますが、中将のシールドがありますので、現時点では極めて優勢。以上です」
「わかった、そうでなくては困るのだ。ただし、敵がどのような策を講じているのか、まだ判断材料が少ない。引き続き、些細なことでも報告してくれ」
エリスは頷き、机に広げられた地図に視線を落とす。
いくつかの場所に、三角形のシールが貼られている。
「では、些細なことですが、報告があります」
タケトが表情を改める。
「何だ」
地図を見たまま、エリス。
「拓磨少尉でありますが、昨晩、ご指示通り、至らぬながら治療を施したのですが、効果があったのか無かったのか、まあ、あったんでしょうな、今朝の時点では、ほぼ回復しております」
「そうか」
エリスは、短く答える。
タケトは、エリスの様子を伺いながら、少しためらいがちに口を開く。
「その……中将は、まだ、少尉のことを、怒っておいでですか?……つまり、その件について……」
エミリも加勢しようと、口を開きかけたとき、
「少尉の件は問題ない。処罰はもう終わっているのだ。現時点で何も少尉を規制するものはない。もし、その件で少尉が何か気にしているのなら、今まで通りの行動を許可しろ」
エリスはタケトを見上げ、無表情に答える。
「第一、……私は、怒ってなどいない」
「わかりました」
タケトとエミリは、ホッと安堵のため息をついた。




