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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第4章]エリス
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(1)学生

 赤い光が、ぼんやりと視界を満たす。

 拓磨は目を開けようとしたが、うまく周りが見えないことに気づく。

「気がついた?」

 エミリの声。

 拓磨は、自分が、多分衛生科のテントにいるのだろう、と考える。

 努力して、もう少し目を開くと、心配そうな顔でのぞき込むエミリの顔が見えた。

 (エミリ?)

 喋ろうとしたが、口が動かない。

 同時に、顔中からズキズキと痛みが襲ってくる。

 口の中が、鉄の味で満たされている。

 拓磨は痛みに目を閉じるが、再び目を開け視線をさまよわせる。

 その行為にエミリは、

「中将なら、あそこにいるわよ」

と、指を指す。

 視界の端に、金色の髪の少女がちらりと見えた。

 表情は、分からない。

 (エリス)

 再び喋ろうとしたが、口からは空気しか漏れない。

「いやー、しかし、こんな顔になって帰ってくるとは、一体中将に何したんだ?」

 ひときわ明るい声と共に、タケトの顔が目の前に現れる。

「……だから、忠告しておいたろ? 中将は強いって。力づくは駄目だぞ」

 これは、耳元で囁いた。

 ――ご、誤解だっ。僕は、何もしていないっ

 いや、何もしていないことはないのだが、だから、……そういうことじゃないっ。

 意味のない弁解を、拓磨は心の中でしていた。

「少尉に反逆行為があったので、処罰したまでだ」

 抑揚の無いエリスの声。

「反逆……ですか。と言いましても、彼のは、今に始まった事じゃないはずですが、何か、よほどお気に障ることがあったとしか、考えられないのですが……」

 タケトは首を傾げながら、疑問をぶつける。

「大佐、とにかく、手当をしておけ。恐らく、今晩から明日にかけて、始まるぞ」

 エリスは答えず、がさがさと音を立て、テントから出て行った。

 ふぅ、と、2カ所からため息が漏れる。

「痛い?」

 エミリの声。

 拓磨は頷こうとしたが、あいにく首もしびれて動かない。

「そりゃ、痛えだろ。見ているこっちが痛くなってくるぜ」

 ――そんなに大変なことになっているのか?

 拓磨は、昼間の場面を思い出す。


 あのとき、心底エリスを怖いと思った。

 本当に、殺されるのかと思った。

 今まで、色々と酷いことをされてきたような気がするが、そんなものは、エリスにとっては、じゃれているうちに入っていたのであろう。

 ――まあ、死ぬよりましか

 もし、エリスが助けてくれなければ、千紗と共に地面にめり込み、文字通り生涯を終えていたことだろう。

 ――だけど、何であそこまで怒ったんだろう

 今まで見たことがない、怒りに支配されたエリスの表情を思い出す。

 ――まあ、エリスの言うことに従わず、その上迷惑をかけたからだろうな

 刺すような痛みや、鈍い痛みに耐えながら、拓磨は考えていた。

「ねえ、タケト、これって効くと思う?」

 エミリがタケトに何かを聞いている。

「やってみるしかないんじゃないか? なんせ、この部隊で、怪我をするような兵士は滅多に出ないからなぁ、さっぱりだ」

 小さな視界の中で、タケトとエミリが何かをのぞき込んで、話している。

「だけど、本当に中将が、あそこまで殴ったのかしら」

「冷静な状態であれば、しねぇだろうな」

「何よ、あの中将が、冷静さを失ったとでも言うの? タケトの冗談は、いつも新鮮で退屈しないわ」

 エミリがくすくすと笑う。

「それは光栄だ。まあ、しかし、拓磨が相手だからな、何が起こるかは未知数だ」

「確かに、学校へ行くと言い出したときはびっくりだったわ」

「ああ、だけどよ、せっかく制服を調達してきたのに、『なんだこの動きにくい服は、もっと機能的な物はないのか』と怒られたしな」

「ふふ、それが、制服だって、説得するのに苦労してたわね」

 ――学校に来るときにも一波乱あったみたいだな

 拓磨は、赤い光を見ながら、ぼんやり考える。

「そうだよ、まったく~、渋々着た後も、『何か気持ち悪い。早く2週間が終わらないものか』とかぶつぶつ言っていたし」

 タケトが、ため息をつきながらのエリスの口まねをすると、エミリが声を押し殺して笑う。

「でも、よく一晩で学生の振る舞いを身につけたわね。私なら、絶対にぼろを出すわ」

「ああ、よくわかんねぇが、とにかく、中将のそういうところは、さすがと言うべきだな。拓磨にも聞いたが、弁当が多い以外おかしな所はなかったと言っていたし」

「弁当と言えば、いきなり量を減らしたみたいだけど、大丈夫だったの? 中将の食べる量は、使用している力からすると必要な量よ。危険じゃないの?」

「それはな……」

 タケトが、エミリに顔を寄せ、声を潜めて、何かを話している。

 エミリが、タケトの声に合わせて時折頷いたり、えっ? と言う表情をしたりしている。

 時々ちらりとこちらを見るのが、気になるが……。

 ――何か、2人とも良い雰囲気だな

 やがて、拓磨は、再び意識が遠のくのを感じていた。


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