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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
37/64

(5)-3

「あれ?」

 拓磨は校舎から飛び出したと同時に、後悔する。

 本は開いた、確かに『フライ』のページを。

 日頃のエリスによる特訓の成果だ。

 しかし、現実は、千紗と共に近づいてくる地面を、ぼんやりと眺めている自分。

『石がなければ発動しない!』

 上の方からエリスの声が追って来た。

「ああ、そういうことか」

 ――まあ、仕方ないな

 拓磨は、覚悟を決めた。

 千紗は、拓磨の少し下で目をつぶったまま落ちている。

 時間にして、約2秒弱、その先で待っているのは、確実な、死。

 拓磨が目をつぶろうとした時、眼前に髪を上に靡かせた状態のエリスが現れる。

「エリス?」

 同時に、ぐんと引っ張られる感触がし、直後、すとん、と尻餅をついた。

 気づくと、中庭の芝生の上に座っている拓磨。

「?」

 視線を移すと、がれきの脇で、気を失っている千紗が倒れていた。

 胸の辺りがゆっくりと上下しているから、無事であることが分かる。

 拓磨は、ホッと胸をなで下ろした。


 ジャリ


 と、砂を踏む音がする。

「少……尉」

 やたら低い声と共に、自分に落ちる影に気づき、顔を上げると、太陽の光を背にした、エリスが立っていた。

 吹いてきた風に、金色の髪や制服がはたはたと靡く。

「エリス。エリスが助けてく……」

 拓磨が立ち上がろうとした瞬間、ものすごい衝撃が、拓磨の頬を襲う。

 流れる景色をぼんやり見ながら、拓磨は、エリスに殴られたことを悟る。

 

 ザザッ


 数メートル先の砂地に肩から倒れ込む拓磨。

「くっ……」

 思わず息が止まる。

 目を開けると、エリスがつかつかと歩いてくる。

「え、エリ……」

 拓磨は、自分の上に仁王立ちになるエリスのただならぬ表情に、思わず言葉を失った。

 直後、胸ぐらを掴まれ、エリスの目の高さまで引き上げられる。

 すごい力だ。

 エリスは、険しい顔をしたまま口を動かす。

「こ……の、大馬鹿者!」

 再び、衝撃と共に景色が反転する。

 エリスが拓磨の方に歩いてくる。

「そんなに死にたけりゃ、この手で葬ってやる!」

 衝撃と共に、流れる景色。

 ぼんやりとした拓磨の視界に、地面との境界線から近づいてくる、黒色のハイソックスが映っていた。

 エリスが、目前に迫る。


 ――殺される!

 

 拓磨の身体に戦慄が走るが、身体がしびれて身動きできない。

 再び引き上げられ、頭に衝撃。

「もうしないかっ?」

「助け……」

 衝撃。

「2度としないと誓えっ!」

「た……」

 ガーンと耳鳴りがする。

「少尉! 返事はっ? 返事をしろっ! 命令復唱っ!」

 やがて、身体の感覚がなくなっていくのを、拓磨は感じていた。



 がれきの向こうで、拓磨の上で馬乗りになり、顔を真っ赤にしながら、ぼかすかと殴りつけているエリスの姿を、千紗は無表情に眺めていたが、やがて、

「ふふ、『鉄壁』の弱点、見ぃ~つけたっ。さあ、始めるわよ、……中将さん」

と楽しげに呟き、口の端を上げた。


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