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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
36/64

(5)-2

「千紗ぁーーーーっ!」

 拓磨は無我夢中でジャンプし、手を伸ばす。

 手に僅かな感触があり、同時に、ぐんと引っ張られる。

「拓磨?」

 目を開けると、拓磨の眼前で、壁の無くなった校舎の4階からぶら下がり、揺られながら拓磨を見上げる千紗がいた。

 その千紗をつなぎ止めているのは、拓磨の左腕。

 ――間に合った!

 千紗の後ろで、4階の廊下にあった壁が、バラバラになり中庭に落ちていく。

「千紗っ!」

 しかし、千紗は拓磨を確認すると、微笑み、口を動かした。

「拓磨、ありがと。でも、手を離して」

「千紗? 何言ってるんだ? 出来るわけ無いだろ?」

 千紗は首をゆっくり振ると、再び口を動かす。

「どうせ、助からないわ。このままじゃ、拓磨まで巻き込んじゃう」

「絶対に助ける! あきらめるんじゃないっ!」

 大きく頭を振る拓磨。

 とはいえ、既に、手がしびれてきていた。

 突然、拓磨の脇でもぞもぞと動く感触がし、続いて、拓磨を呼ぶ声。

「少尉!」

 気づくと、拓磨の横でエリスが腹這いになり、『くそっ』と呟きながら、腕を伸ばしていた。

「エリス?」

「やはりな、私では無理か」

 エリスは呟き、ひとしきり腕を伸ばしていたが、ハッと気づき、いきなり立ち上がる。

 拓磨は、エリスを見上げた。

 エリスの通常より2回りも小さい身体のおかげで、拓磨のように手を伸ばしても、千紗に届くことが出来ないのだろう。

「……かなみちゃんも、逃げて! 拓磨を、……お願い」

 千紗は、複雑な表情を浮かべながら、エリスに向かって声をかける。

「少尉、残念だが……」

 エリスは言いかけ、拓磨を見、口を閉ざす。

 拓磨は泣きそうな顔で、エリスに懇願するように、

「エリス。……お願いだ。千紗は、僕の……たった1人の幼なじみなんだ。じいちゃんも死んで、千紗も死んだら、僕は、……もう生きていけない!」

 うわずった声を出した。

 ――わかっているんだ。だけど、エリスなら、〈力〉を使えるだろ?

 拓磨の目が、そう訴えている。

 エリスは、何かに耐えるように天井を見上げ、再び拓磨を見ると、首を横に振った。

「少尉。私には、……どうしてやることも出来ない」

「どうしてやることも出来ないって……何もせずに!」

 拓磨の瞳に絶望の色が映り、直後、エリスを睨み付け、吐き捨てた。

 拓磨は、おもむろに右手でポケットを探る。

 何かを探し当て、それを取り出す。

 紺色の表紙の手帳サイズの本。

 ハンドブック。

「少尉! それは駄目だ」

 エリスの声に耳を貸さず、片手で親指を入れ、開く。

 千紗が、その様子をぼんやりと見上げている。

『フライ』と書かれたページが開かれる。

 エリスは、いきなりそのページを引き当てた拓磨に、少なからず驚きの表情を見せる。

 ――ちゃんと、練習はしていたんだな

 その一瞬が、エリスの状況分析能力を鈍らせた。

「フライっ!」

 拓磨は叫ぶと、そのままエリスの視界から消えた。

「少っ……!」

 生まれて初めての感覚が、全身を突き抜けるエリス。

 エリスは、スカートのポケットから紙を数枚取り出すと、震える手で乱暴に折りたたむ。

「馬鹿者! 石がなければ、発動しない!」

 一瞬で形を変えた紙を、思いっきり下に向かって投げつける。

「くそっ、何故だっ!」

 エリスは叫ぶと、そのまま飛び降りた。


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