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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
35/64

(5)弱点

 教室の前では、教師が黒板に漢字を書きながら、なにやら説明している。

 黒板が全て漢字で構成されており、所々に記号が描かれている。

 相変わらず、エリスと拓磨の机はくっついている。

 拓磨が、あくびをかみ殺しながら、横目でエリスをちらりと見ると、エリスは『漢文I』と書かれた拓磨の教科書を、興味深げにめくっていた。

 先ほど、エリスのいじめ……もとい、エリス中将による有り難い科学系戦術の特訓が終わり、いつものように、エリスが仮眠を取り、チャイムが鳴り、今に至る。

 つまり、拓磨にとって、今は、本日最大にして最強の睡魔と戦う時間なのだ。

「少尉」

「……」

「少尉っ!」

 エリスの押し殺すような声に、重いまぶたを上げ、拓磨は自分が居眠りしていたことに気づく。

 エリスの方へゆっくりと振り向くと、エリスは、拓磨を厳しい目つきで睨んでいた。

「エリス?」

「来るぞ! 気をつけろ」

 小声で囁く。

「何が?」

 と、拓磨が聞くよりも早く、それは起こった。


 ドン


 いきなり下から突き上げるような衝撃。

「!」

 続いて、ゆっさゆっさと揺れるような感触。

「きゃぁーーーーーーーーっ」

 女子の悲鳴が、教室内を木霊する。

「わっ」

「地震だっ!」

 数人の男子が声を上げ、教室はパニックになる。

「静かに! 落ち着くんだ。訓練の時のように、机の下へ!」

 教師が、大声を張り上げる。

 生徒達が、がたがたと机の下に潜ろうとしたそのとき、

「総員! 直ちに待避っ! 即刻校舎から離れろっ! 死にたいのかっ?」

様子を見ていたエリスが、椅子を跳ね飛ばして立ち上がり、大声を上げる。

「今のは前兆だ! 規模からすると、すぐにでかいのが来るぞっ!」

 そう叫ぶが早いか、拓磨の腕をがしっと掴み、廊下へと向かう。

「!」

 拓磨は状況がつかめず、エリスに引きずられながら移動する。

「わあああああーーーーーーっ!」

「いやぁああああっ!」

 エリスの言葉に、あっけにとられていた生徒達が、しかし、次の瞬間、我に返り、我先へと出口に向かう。エリスの声が聞こえたのか分からないが、廊下に出ると、他のクラスの生徒も、一斉に非常階段を目指していた。

 エリスと拓磨が、非常階段の扉をくぐろうとしたとき、

「きゃーっ! ちぃちゃぁ~ん」

「さくらっ、大丈夫?」

拓磨の聞き覚えのある声が、背中の後ろから聞こえた。

 振り向くと、さくらが突き飛ばされて躓き、千紗がそれを助けようと、人混みをかき分け、戻っている。

「千紗!」

 拓磨は口の中で呟くが、ぐんと引っ張られ、前を向く。

「少尉! 時間がない」

 エリスである。

 拓磨がエリスに促され、足を踏み出そうとした瞬間、再び強い衝撃が襲い、思わず尻餅をつく。

 衝撃で、エリスの手が離れる。

 それが、僅かであるが、拓磨に選択肢を与える結果となった。

「ああっ、ちぃちゃん!」

 さくらの泣きそうな声に拓磨が慌てて振り向くと、人混みの向こうで、廊下の壁がはがれ、校舎の外側に落ちていくのが見えた。

 さくらを助けようと戻っていた千紗が、人混みに押され、壁の方へ、ふらふらとよろけるように倒れ込む。

 その壁と廊下の境目に亀裂が走り、亀裂がゆっくりと大きくなっていく。

「!」

 拓磨の背筋に寒い物が走る。

「千紗っ!」

 次の瞬間、拓磨は千紗に向かって走り出していた。もちろん、こちらへ押し寄せる人混みをかき分けなくてはならず、思うように進まない。

「少尉っ! 無理だっ!」

 後ろからエリスの声。

 しかし、拓磨の目には、よろけて尻餅をついた千紗の、もたれかかった壁が割れ、校舎の外が丸見えになる様子が、スローモーションのように映っていた。

 やっと、人混みが終わり、涙目で見上げるさくらの脇を通り過ぎる。

 さくらを非常階段の方に押しやると、拓磨は千紗の元へと走る。

 再び衝撃が起こり、千紗のもたれていた壁が、外へ落ちていく。

『信じられない!』という目をし、口を半開きにしたまま、千紗が、そのまま後ろに倒れ込み、拓磨の視界から消えようとしていた。


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