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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
31/64

(3)-3



「しかし……」

 星空の下、明かりに照らされている木々に囲まれた作戦室の中で、タケトは笑みを浮かべる。

「中将の『それ』も、すっかり板に付きましたなぁ」

 タケトの視線の先では、エリスが相変わらずの仏頂面で、机についていた。

 いつもの風景であるが、数日前から、異なることが一点ある。

 それは、エリスの服装。

 当初の草色の簡素な服装とは異なり、現在は、ぱりっとした白い半袖のカッターシャツに、紺色のスカート、黒のハイソックスという姿だ。

 襟の部分には、水色のリボン。

 左胸のポケットの上に、植物をかたどった菱形の模様に『高』と書かれた、春日高校の校章がついている。

 胸ポケットには、オレンジ色のフェルトの上に、白いアクリルの小さな板が貼り付けられ、『桜庭かなみ』と書かれている名札が、ピンでとめられている。

 なかなか、様になっている。

「名前も、我ながら良いセンスだ……」

 うんうんと頷き、次に、タケトは拓磨に視線を移す。

 同様のカッターシャツに、グレーのスラックス姿である。拓磨の場合、正真正銘春日高校の生徒なのだから、当たり前なのであるが。

「しかし、こうして見てみると、何だか、お似合いのカップルって感じですなぁ」

「なっ! た、タケト、何言い出すんだよっ!」

 タケトの突然の言葉に、狼狽する拓磨。

 いや、別に狼狽する必要などないのだが、普段膨らませている妄想を見抜かれている気がして、居心地が悪い。

「大佐、外見などどうでも良い。ところで、敵の様子はどうだ。今日の状況を、かいつまんで話せ」

 対して、無表情のまま、ため息をつきつつ、タケトに報告を迫るエリス。

「はっ。特に目立った動きは無いようですが、敢えて変化と言えば、本日、4カ所で炎色反応がありました」

 タケトが、姿勢を正し、報告する。

『炎色反応』と言う部分で、エリスが僅かに表情を動かす。

「その場所は?」

 タケトは、エリスに言われるより一瞬早く、机に、A3の倍ぐらいの紙を広げる。

 紙には、明らかに春日市の地図と思われる図形が描かれており、その上に4枚のシールが貼り付けられている。

 シールの色は、それぞれ異なるが、拓磨には、それが何を意味するのか分からない。

 エリスは、ちらりと地図を見ると、タケトを見上げる。

「一番最後の反応は、どこだ?」

「こちらです」

 タケトは、黄色のシールを指さす。

「……ふむ。やはりな。いよいよ始まるぞ」

 エリスは、ちらりと拓磨を見ると、頷いた。

「中将の言われたとおりですな。しかし、やはり、媒体が見つけやすいと言うことでしょうか?」

 エリスは答えず、1つだけ離れている赤色のシールを指さす。

「ここは? ここには、何があるのだ?」

 タケトは、一瞬間をおき、

「中将、ここは、その、α地点です」

 小声で説明する。

 エリスは、『ああ、そうか』と言う顔をし、

「やはり、一度、直接行かなくてはならないか……」

と小声で言い、それ以降口を閉ざした。

「『炎色反応』って何?」

 拓磨は、どちらに聞いたらいいのか分からず、エリスとタケトを交互に見る。

『炎色反応とは……』

 エリスとタケトが同時に口を開く。開いた後、タケトはエリスを見、『どうぞ』と言った感じで、目配せをした。

「炎色反応とは……」

 エリスは一息つくと、拓磨を見上げた。

「陽界以外の力が使用されたことを示す物だ」

「陽界以外の力?」

 新出単語を、そのまま繰り返す拓磨。

「ああ、例えば、少尉がなかなか覚えぬ科学系戦術もそれに当たる」

 エリスは口の端を上げ、目を細める。

「……」

 痛いところをつかれ、拓磨は顔を引きつらせた。

「……で、どうしてそんなことが分かるの? いわゆる『魔法』とかじゃなく、純粋に科学的な力だよね。それって」

「確かにそうだな、俺も知りたい」

 後ろで、タケトが呟く。

 その様子を、エリスは少しの間見ていたが、ため息をつき、視線を落とす。

 そのまま、なにやら考え込むように、エリスは難しい顔をする。

 何事かと、タケトと拓磨が声をかけようとしたとき、エリスは再び顔を上げた。

「ところで、腹が減ったな」

 拓磨はカクッと体勢を崩し、タケトは大声を張り上げる。

「中将に食事をお持ちしろ!」

「はっ!」

 少し離れたところで、声が上がる。

「大佐と少尉の分も準備させろ。説明がまだ終わっていない」

「あと2人前準備っ!」

 再びタケト。

「はっ!」

「エリス、やっぱり、昼の量では足りないんじゃ……」

 拓磨の言葉に、エリスは半眼になり、抑揚のない声で呟いた。

「少尉、無駄口は寿命を縮めるぞ」

 タケトが後ろで笑いをこらえている。

「大佐、教育が悪いようだ。教育係である大佐も、罪を逃れられぬな」

 エリスの言葉に、笑いを収めるタケト。拓磨を小突く。

 見上げる拓磨に、タケトは目で訴える。

 (腹が減っている中将は、獅子より危険だ! よけいな刺激をするな!)

 こくこくと頷く拓磨。

 エリスの怖さは、この数日で身にしみている……つもりだ。

 だから、エリスの机に、どう考えても10人分はある食事が並べられても、拓磨は何も突っ込まなかった。

 それよりも、同じ量が出てきやしないか、そちらの方が心配になっていたが、兵士が、普通の皿にシンプルな料理が並んでいるプレートを持ってきたのを確認すると、拓磨は安堵のため息をついた。

 まあ、エリスの『怖さ』を、拓磨は、近々身を持って知ることになるのであるが。


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