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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[序章]戦場にて
3/64

序ー3

 ズゥォォォォーーーーーン


 腹の底から突き上がる振動。

 エリスの背後の木が爆ぜて、倒れた。

 爆ぜた木が飛び散り、火の粉が舞う。

 しかし、エリスは微動だにしない。

 こんな状況であるが、宙を舞う火の粉を背景にし、金色の髪をなびかせるエリスの姿は、さながら絵になっているな、とタケトは思った。

「……で、どうする?」

 エリスが聞く。

「あと、30秒で兵士達がすべて避難できる。それから頼む」

「わかった」

 言うと、エリスは、懐より白っぽい長方形の札のような物を取り出す。

「なぁ……」

 エリスの手元を見ながらタケト。エリスは札を折りたたみ、順番に並べていく。

「なんだ?」

 エリスは手を止めない。

「この作戦は失敗。作戦総責任者である俺は降格だな。どこか僻地へ左遷かもしれん」

「そうか」

 エリスの言葉に、タケトはため息をついた。

「そうか……って。……まあ、確かにそうだな」

 わかってはいるのだ。……と、タケトは呟く。

「陳情をするのなら軍法会議部に出頭するべきであろう。少将の進退に関して、私は何もしてやれぬ」

「まあ……、そりゃそうだ。でも、人間の場合、仕方なくても言葉に出さずにはいられないものなのさ」

「『愚痴』というやつか?それで、何か具体的な解決をすることがあるのか?」

「ないね」

 エリスが顔を上げた。

「人間という物は、言っても意味のない『愚痴』とやらを言ってみたり。無理だとわかっている作戦を押しつけられても引き受けてみたり。我々には想像もつかない。我々は、自分達の弱さや愚かさをよく知っている。だから、自分達に出来ないことを、敢えてしようとは思わない」

「まあね」

 タケトは付け加える。

「だが、それが人間という生き物だ」

「もちろん……」

 エリスが立ち上がった。

「少将は、私が確実に国へ送り届ける。今回の作戦成功率は99.8%。そのために私はここにいる」

「もし、連絡を受けたときに、行っても間に合わないと判ったら、無駄だと言うことで来なかったのか?」

「……難しい質問だな」

 エリスは少し手を止め、考え込む。

「『難しい』と言ってくれたことに感謝すべきだな」

 タケトは目で笑った。

 その視界の端で、何かが動いた。

 タケトが腰に手を伸ばすより一瞬早く、『それ』は飛び上がり、その軌跡はエリスの頭上へ通じる弧を描いた。

 軍に所属して十余年、数々の修羅場をかいくぐってきたタケトでさえも、さすがに背筋が寒くなった。

 自分の全能力を結集しても間に合わないと判る瞬間。

 最速で剣を繰り出しても、『それ』がエリスの頭に到達する方が速い事は明らかだ。

 無駄?それでも……と、剣を繰り出し、経験上もっとも無駄のない軌道を描く。

 だが、『それ』がエリスの頭上あと十数センチという所で炎に包まれ、文字通り消滅した。

「ん?」

 エリスは頭上を伺う。

 それから、タケトの方を見る。

「私を切るつもりか?」

 すべてが終わった瞬間、タケトが抜いた剣は、エリスの頭上で停止していた。

「いや、今、王国四中将の生命の危機に遭遇していたところだ」

 剣を腰に納めながらタケト。

「ああ、すまない」

 エリスは後ろを振り返った。

「我々の周囲及び移送陣周りは、先ほどシールドしておいた。奴ら程度の攻撃は効かない」

 こういうとき、タケトはエリスの凄さを思い知らされる。

 戦場に似つかわしくない静かさ。

 それを可能にする本人の能力。

 そして、エリスには、外見的な特徴もある。

 人間にしては整いすぎている顔立ち。

 透き通るような金色の髪。

 平均と比べると、かなり小柄で華奢な体型。

 その姿から、人間以外の種族……例えば、エルフ族の末裔ではないかと噂されているが、 実際のところはだれも知らない。

 タケト自身、その昔エルフという種族がいて……というおとぎ話でしか、その存在を知らないのだ。

 エリス本人が、仮に、エルフだとしたら持っているはずの『特殊能力』の存在を否定している。

 第一、誰も、その『特殊能力』とやらを目撃したことがないのだ。

 つまり、能力が並はずれている者に対する、ただの噂、と言うことであろう。

『科学系戦術』――高度な科学の研究により、空間のエネルギー取り出しに成功して久しい。

 ただし、手順が複雑であり、王国でも完全に使用できる者は、エリスを含め僅か。

 他の者は、ある補助手段を用いて、簡易的に実現している。

 エリスは言う『私は、器用だからな。だから、他の者よりもより多くのエネルギーを取り出せるだけだ。エルフ? もしそんな種族なら、私はここにはいない』と。

 本人は、噂を全く相手にしていない。

 ただし、人間と一線を引いているとも取れる発言が、随所に見受けられるのも確か。

 登録上の年齢は16歳。タケトの四つ下。

 王国に現存する四中将の中の一人であり、『第十三科学系戦術師団』を統率している。

 組織上の部下は、八千人以上。

 ほんの十年前、千年以上安定していた空間のバランスが、陽界との境界――狭間――付近を中心に突如として崩れ、この世で定義されていないエネルギー――魔物――が、はびこるようになり、泥沼の戦いが始まった。

 当時、空間波動制御の理論は構築されつつあったために、急遽科学系戦術部隊が編成され、空間のバランスを保ちつつ、魔物を殲滅するという任務を受けた。

しかし、その任務柄、あっさりと部隊全滅、と言うことがよく起こり、第十二科学系戦術師団までは現存していない。

 噂によれば、エリスは、僅か十歳の時に、所属していた部隊が魔物の奇襲を受け全滅したのだが、たった一人で生還した。しかも、そのときの魔物を一体残らず殲滅したと言われている。

 その後も、常人では考えられないほどの数々の功績を挙げ、年を経る事に昇進、そして、二年前、エリス率いる第十三科学系戦術師団が結成され、王国史上初めて半年以上存続できた、不敗の科学系戦術師団としてその名を轟かせるところとなった。


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