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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
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(3)千紗

「ばっかみたい。鼻の下伸ばしちゃって」

 昼のチャイムと同時に、そそくさと教室を後にする、拓磨と〈かなみ〉を眺めながら、千紗は呟いた。


 知りたくもないのに、特派委員山口が、『スクープ! 用務員室での情事!』などと騒ぎ立てるもので、まあ、どうせ何をする勇気もないだろうが、少なくとも、拓磨と〈かなみ〉が毎日昼休みを一緒に過ごしていることだけは、千紗の知るところとなった。

 確かに、あの日、拓磨に『距離を置こう』と言った。物は言い様であるが、つまり『別れよう』と言うことだ。

 正直、拓磨の奔放ぶりに、いい加減嫌気がさしていたし、何よりも、拓磨にちゃんとしてほしい、と言う幼なじみとしての希望もあった。

 また、実際付き合っていたと言っても、高校生にもなってキスの一つもしたことがないし、記憶をたどっても、手をつないで街を歩いたことすら、有るか無いか疑わしい。

 ただ、お互いがお互いを空気のように、『居るのが当たり前』に感じていただけに過ぎない。

 だから、ああなることは、いわば時間の問題、自明の理であったのだ。

 とはいえ、『距離を置こう』と言ったときに、特に追いかけるわけでもなく、そのまま自然消滅を選択した拓磨に対し、これはこれで腹立たしい。

 まあ、これについては、わがままな乙女心なのかもしれない、と、千紗は思う。

 腹立たしいことは、もう一つある。

 何で、よりによって『あの日』の直後に、新しい女の子、しかも、とびっきりかわいい子が現れ、いきなり拓磨と仲良くなっているのか?

 タイミングが良すぎるのだ。

 もしかして、その子と付き合おうとしていたから、千紗をあきらめたのだろうか。

 そこまで考えた瞬間、千紗は、直前の考えを否定する。

 拓磨は、そこまで器用な男ではない。これは、確実に断言できる。

 もし、そんなに器用な男なら、千紗に振られることもなく、うまく関係を続けていけたに違いない。

「ねえ、ちぃったらぁ~、聞いてるぅ??」

 声のする方に視線を戻すと、さくらが箸を持ったまま、上目遣いに千紗の顔をじっと見ている。

 丸顔のさくらは、美人ではないが、おっとりしており、しかも、天然がかなり入っていて、可愛らしい。千紗でさえ、たまに、ぎゅっと抱きしめたくなる衝動に駆られることがある。

 そう、系統で言えば『守ってあげたい』と感じさせる子なのだ。

 外見に違わず、さくらの弁当も、こじんまりとした中に、色とりどりの具が入っており、こちらもままごとみたいで可愛らしい。

 勇気のない隠れファンの男子が、少なくともこのクラスに3人はいることも、千紗は知っている。

「ん? えーと、何だっけ?」

 すみません、何にも聞いてませんでした、と言う表情で、千紗は答える。

「んもぉ~、何それ、まるで櫻井君みたいじゃん。櫻井ワールド無き今は、ちぃワールド?」

 さくらは、おどける。

「たっ、拓磨は関係ないでしょっ!」

 千紗は、思わず大声を上げた。何で、そんなに癇に障るのか、自分でも分からない。

「ご、ごめんね。そういうつもりじゃ……」

 さくらは、うつむき、ぼそぼそと言った。

 ここまで来て、千紗が理不尽にさくらに当たり散らしたことに気づく。

「……あ、ううん。さくらは悪くないの。私の方こそ、大声出してごめんね。っで何だっけ、ごめん、もう1回言ってくれる?」

 千紗は慌てて取り繕い、笑顔を見せる。

「あ、……うん。あのね、くだらないことなんだけどぉ~、今日ね、お兄ちゃんが来るんだぁ~」

 目尻をさっとぬぐいながら、さくら。

 ――な、泣かないでよっ

 千紗は罪悪感を募らせる。

「え、雅樹兄さん? よかったじゃ~ん」

「……うん」

 千紗の言葉に、さくらは頬を染め、弁当を箸でつつき回す。

 雅樹兄さんとは、さくらの従兄にあたる。大学生で、東京に住んでいるのだが、1ヶ月に1回、実家に帰ってくるのだ。それに合わせ、さくらの家にも遊びに来る。

 雰囲気から推察できるだろうが、さくらは雅樹に憧れているわけで、雅樹が帰ってくるとなると、もう幸せの絶頂、と言うことだ。


「いいな~、さくらは。かっこいいお兄さんがいて……」

「ごめんね?」

 さくらは申し訳なさそうに千紗を見た。

 その言葉に、千紗は怒ったような表情を見せ、さくらの頬をつねる。

「何で謝るの? も~、やめてよね。そうやって、気を遣うの。私は何ともないし、金輪際、無しだよっ」

「ほ、ほへんははい」

 さくらが謝ると、千紗は指を離し、くすくすと笑い出した。

 少しの間、頬をさすっていたさくらも、つられて笑い出す。

「先輩には、ちゃんと言っておくから。さくらの分も私がやっておくし、部活のことは忘れて、心おきなくお兄さんに甘えて来な」

 千紗は笑みを浮かべながら言う。

「うん、ありがとっ」

 さくらも笑顔で答え、弁当を口に運んだ。

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