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「あら、拓磨が女の子の友達を連れてくれるなんて珍しいわね」
40歳ぐらいであろうか、女性がはにかみながら、春日高校の制服を着た女性に『どうぞ』と廊下の奥へと促す。
「お母様、初めまして。桜庭かなみです」
内心冷や冷やしている拓磨の横で、母親である由衣に、硬い表情で会釈をするエリス。
「初めまして。かなみちゃん……でいいわね?」
居間に案内しながら、由衣はエリスの方をちらりと振り返る。
「はい。そう呼んでください」
エリスは、にっこりと笑った。由衣は鼻歌を歌いながら、台所の奥へと消えた。
居間のテーブル脇に腰を下ろエリスと拓磨。
居間の端にはテレビが据え付けてあり、その脇には棚があり、色とりどりの本が並んでいる。
何故か、2人は拓磨の家にいる。
と言うのも、突然、エリスが拓磨の母親を見たいと言いだし、訳が分からないまま、拓磨は自分の家にエリスを連れてきたというわけだ。
「エリス。すごいね。母さん全く怪しんでいないよ?」
ちゃぶ台の前で正座するエリスの隣で、拓磨はびっくりしたような顔でエリスを見る。
「当たり前だ。言ったであろう。学生の行動は完全に身に付いていると」
エリスは無表情で答える。
「うん、すごいね」
拓磨が素直に感心していると、奥から由衣が顔をのぞかせた。
「あっ、お菓子も飲み物も全部切れているわ。駄目ねぇ~。拓磨がいないと。拓磨、ちょっとお使い頼まれてくれる?」
「うん」
拓磨は立ち上がり、由衣の元へ歩いていく。
台所で由衣から何かを受け取ると、そのまま廊下に出て行った。
「エ……かなみちゃん。ちょっと待っててね。しばらく、母さんとご歓談でも……」
ガラガラと引き戸を開ける音と共に、拓磨の声が居間に流れる。
「うん、風が吹くかも、気をつけてね」
エリスが、玄関に向かって声を掛ける。
「ありがとう。強風を避けるよ」
「気をつけてね~」
拓磨の返事に頷くエリスの越しに結衣は笑顔で声を掛けた。




