表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
26/64

(2)由依

「なあ、エリスって、科学系戦術を使って戦っているんだろ?」

 拓磨は弁当をつつきながら、エリスをちらりと見る。

 用務員室で弁当を食べる、拓磨とエリス。既に、日課になりつつある。

「ああ、そうだが」

 当初と比べると、だいぶ量が減った弁当を口に運びながら、エリス。

 拓磨は箸を止め、エリスの手元を見る。

「もし、使う暇が無く、敵が襲いかかってきたら、どうするんだ?」

「?」

 言っている意味が分からない様子で、エリスは拓磨の顔を見た。

「いや、つまり、敵が突然エリスに掴みかかってきたらさ、その、……エリスは、見た目はすごく華奢だし、大変だろうなって。前みたいに離れている敵ばかりじゃないと思うんだ」

 拓磨は菜っ葉をつつきながら、説明する。

 エリスは、しばし拓磨の顔を見ていたが、

「試してみるか?」

 そう言い、再び弁当を口に運び出す。

「試すって?」

 拓磨は、オウム返しに聞いた。

「いいから、まずは、弁当を片づけろ。その後だ」

 エリスの言葉に、拓磨は頷き、残りの米を口に流し込んだ。

 既に食べ終わり、拓磨を見ていたエリスは、重箱を横に置くように促し、立ち上がる。

「じゃあ、何が良い? 格闘か?」

 肩を回しながら、エリス。

 格闘ってことは、取っ組み合いか?

 エリスと?

 拓磨は変な想像をし、赤面する。

「い、いや、格闘は、ちょっと。……そうだ、腕相撲はどうだ?」

 拓磨の言葉に、エリスは口の端を上げる。

「腕相撲は、私の得意分野だ」

 拓磨は意味を深く取らず、頷いた。

「よし、じゃあ、腕相撲で」

 エリスも頷き、拓磨とエリスは腹這いになる。

 肘を畳につけ手を握った状態で、エリスは、相変わらずの無表情で拓磨の顔を見た。

「少尉、手加減しなくて良いか?」

「て、手加減?」

 拓磨は何を言い出すのかと、エリスを見返す。

「全力で良いよ」

「本当だな?」

「ああ」

「本当に、……良いのだな?」

 妙にしつこく念を押すエリスに、まあ、これが、エリスの完璧主義の一端だろう、ぐらいに拓磨は考え、

「ばっちり、フルパワーで、問題なし!」

 息を吸い込むと、腕に集中する。

 はっきり言って、小柄なエリスの手は、ほとんど拓磨の手に隠れ、指先しか見えない。

 ――かといって、もし、エリスの腕が折れたら、ただじゃすまないだろうな

 などと考えつつ、

「よし、じゃあ、始め!」

 拓磨は合図をする。


「!?」

 拓磨は、何が起こったのかを理解するのに、時間を要した。

 力を入れたか入れないかぐらいまで意識があり、次の瞬間、目から火が出た。

 視界を取り戻すと、世界が反転しており、確かに、拓磨の手は、エリスの手の下で、畳にめり込んでいた。

 めり込んでいるのである。

 しかも、

 ――世界が反転?

ここまで来て、拓磨は、エリスに腕もろとも身体をひっくり返されたことに気づく。顔もまた畳にめり込まされていた。

「大丈夫か? 少尉?」

 横向きに映っているエリスが、拓磨を見下ろしている。

 拓磨は、エリスに引っ張り上げられるようにして、起きあがった。

「いや、今のは……」

「だから言ったであろ?」

 拓磨はガンガンする頭を軽く振り、再びエリスを見る。

「いや、ちょっと油断していた。もう1回いいか?」

 その言葉に、エリスは半眼になる。

「ほう、……今のを見ても、まだ私に勝てるつもりでいるのか?」

「とっ、とにかく、もう一度!」

 拓磨とエリスは、再び向かい合い手を握る。拓磨は腕に力を込め、エリスの腕を倒すことだけに集中する。

「少尉、手加げ……」

「いいからっ!」

 拓磨はエリスの言葉を遮る。

 エリスはため息をついた。

「始めっ!」

 拓磨は叫ぶと同時に、渾身の力を腕に込めた。

 そして、再び『大丈夫か?』と見下ろすエリスに、曖昧な笑みを浮かべる羽目になる。

「なるほど、見かけに騙されちゃいけない、じいちゃんが言っていた通りだ」

 口の端を上げていたエリスは、直後、表情を改めた。

「私は、少尉の身の安全を保証する約束をした。我々は、出来もしないことを決して約束したりはしない。科学系であれ、通常であれ、いかなる危機からも、少尉を守る。これは、私の責務だ」

 そう言い、拓磨を引っ張り起こす。

「ああ、どうやら、そうらしいな」

 拓磨は曖昧に頷いた。

 精神的にも、肉体的にも、そして、特殊攻撃も、全て完璧。

 この、鉄壁の少女に、いったい、拓磨は何をしてやれるのだろうか?

 いや、エリスは、少なくとも、そんなことは望んでいないだろうな。

 ただ、任務を遂行するために必要、……それだけなのだな。

 少年の心を傷つけられ、落ち込む拓磨を見ていたエリスは、慌てて付け加える。

「も、もちろん、少尉は、この学校に関し、私に至らないことがあれば、教えてほしい。……戦闘は私の専門分野だ。少尉が私に勝てないからと言って、何の問題もない」

「……」

 ――フォローになっていないんだけど

 エリスなりに気遣っているつもりなのだろうが、言葉の一つ一つが事務的で、いまいち心に響かない。

「き、今日の学校帰り、忘れるでないぞ。良いな?」

 気まずい空気に耐えられなくなったのか、エリスはそれだけ言うと、拓磨の返事を待たず、立ち上がった。

「どこ行くの?」

「!」

 歩き出すエリスを見上げる拓磨に、エリスは振り向いたが、言葉が見つからず、口をつぐむ。

 呼び止めた拓磨も、次にかける言葉が無く、2人はしばし互いに見つめ合ったまま、硬直していた。

「あのさ、今日も、寝た方が良いんじゃない? まだ、時間あるし」

 沈黙を破ったのは、拓磨。

「いや、やはり、任務中に寝るのは……」

 エリスは、視線を落とし、畳を見つめる。

「どうせ、昨日も寝てないんだろ」

「それは、そうだが。……って、少尉が知るはずない。誘導尋問か?」

 はっと顔を上げるエリスに、拓磨は笑みを浮かべる。

「『まあ、そんなことは良いか、確かに、睡眠は必要だ』だろ?」

「……そうだな」

 エリスは軽く頷き、拓磨の横に腰を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ