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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第3章]はじまり
24/64

(1)-4

 今までとは違った男達の表情に何か嫌な予感がし、思わず拓磨は叫んだ。

「エリスっ! 気をつけろっ!」

「タケトがうるさいのでな。なるべく平和的に解決したかったのだが、もはや助けも呼べない。……『緊急事態』だからやむを得ないな。残念だ」

 拓磨の注告に、相変わらず眠そうな表情で拓磨を見下ろし、呟くエリス。

 しかし、その拓磨の言葉で、男達の顔から一瞬表情が消える。

「なっ! え、エリスだと?」

「い、言われてみれば……。まさか! 何故あの中将がここに? やばいぞ!」

 エリスを凝視し、うわずった声を出す男達。

 拓磨は次の瞬間、男達の輪郭が透き通っていくのに気づいた。

「!」

 拓磨は、初めて見る光景に理解力が追いつかず、次の動作が出来なかった。しかし、『逃げられる!』と言うことを直感が告げたため、慌てて声を上げる。

「エリスっ! 奴らが逃げるぞ!」

 エリスはゆっくりと拓磨を見下ろしたが、その口の端が上がっていた。まるで、『わかっている』とでも言いたげに。

 それを裏付けるかのように、実際慌てていたのは、今回も拓磨ではなく男達であった。

「け、結界が解除できない?」

「くっ! どういう事だ?」

 透き通っていた輪郭が、再びはっきりとし、元に戻る。

 男達は、信じられないという顔つきで、両手を確認する。

「……お前達は、既に、私の波動制御下にある」

 エリスは、つまらなそうに呟いた。

「くっ、は、謀ったな!」

 男達の顔が驚愕に歪むのを、拓磨は別世界の出来事のように眺めていた。大体、エリスの名前を聞いただけで、ここまで怯える理由が拓磨には解らない。

 ただ、エリスにほとんど動きは見られなかったが、その間に、彼らにとって予定外のことを行ったらしいということは、何となく判った。

「謀ったのは、お前達の方であろう。まあ、そんなことはどうでも良いか。だが、この事を知られてしまったからには、残念ながら、お前達を返すわけにはいかない。……どうやら、私のことを知っているらしいしな」

 エリスは、相変わらず抑揚のない声で、呟くように、しかし、死刑宣告にも等しい発言をする。

「がっ、やややはりあの中将か!」

「何故彼と? き、聞いてないぞっ!」

 この先自分達に降りかかるであろう運命を知ってか、男達は、足をもつれさせながら、後ずさる。

「『目撃者は始末しろ』であったな。それに、これの礼もしなくては。……そうそう、私を僅かでも辱めたこと対し、それ相応の償いをしてもらうぞ」

エリスは、ため息と共に、一部焦げて無くなっている金色の髪を無造作につまむと、スカートのポケットを探る。

「楽に死ねると思うなよ」

 ――まさか、最後のは八つ当たり??

 拓磨は、先ほど氷のような視線で拓磨を睨み付けたエリスを思い浮かべ、『敵』に同情する。

「『格が違う』……か、私も軽く見られたものだな。ところで、もう攻撃は終わりか? ご丁寧に結界も張ってくれたようだし、目撃者への配慮は必要なさそうだな。……では、こちらから行くぞ」

 エリスは、相変わらずつまらなそうに男達を一瞥し、抑揚の無い声で呟いた。

「ボーダーへ!」

「急げっ!」

 瞬間、糸が切れたかのように、男達は叫ぶと、踵を返し、脱兎のごとく走り出した。

「無駄だ」

 エリスは無表情のまま、少しの間走り去っていく男達を見ていたが、何事かを呟き、ゆっくりとした動作で、手の中で完成した物を空中に差し出す。それは、エリスの手を離れ、放物線を描いて落下しかけたが、途中で青白い光を発し、そのまま男達の方へ向かっていった。

 男達が一瞬安堵の表情をし虚空に手を差し伸べたた瞬間、青白い光が男達を呑み込む。


『ごぐわぁぁぁあぁあぁああああ』

『がぁあああああぁあぁ』


 青白い炎の中で男達が悶える。それだけではなく、徐々に身体が下の方から溶けていくのが、拓磨にも見て取れた。身体が溶けるにつれ、拓磨の知らない液体――血液? 体液? ――が地面にシミを作っていく。

 何とか助かろうと、虚空に手を差し伸べ、口から訳の分からないものをはき出す男達。 あと僅か先に、男達が手を差し伸べた先に、『ボーダー』とやらがあるのだろうか。


『うぐぅうううううううう』

『ぐあがおおおぉぉおおおおお』


 男達がもがくたびに『液体』が飛び散る。もう下半身はほぼ無くなっている。順序が逆であれば、彼らもここまで苦しむことはなかったのであろう。

 余りもの凄惨さに、拓磨は思わず目をそらし、エリスの方を見、息を呑んだ。

 エリスは、相変わらずの無表情で、男達だった物を直視していたのだ。

 それは、少なくとも、敵であれ、目の前で、悶え苦しみながら命が失われていく様子を見るという姿からは、ほど遠かった。

 単に、自分の行った処理結果を、事務的に確認しているような目。

「エリスっ! もう勝負はついているだろう! 早く……」

 早く……、どうするのか、拓磨は続きの言葉に詰まる。

「力なき者を殺めようとしていたのだ。あのような輩を単純に赦すことは出来ない。遺伝子レベルで恐怖を植え付けないとな」

 しかし、エリスは、氷のような視線で男達を睨み付けたまま、淡々と答えた。

 拓磨は、身体を徐々に満たすどす黒い物――恐怖――に、震えを押さえられずにいた。

 何に対して恐怖を感じているのか、よく理解出来なかったが、その中の1つに、このようなことを、表情一つ変えずやってのけるエリスに対しての恐れが含まれていることも、否定出来なかった。

 エリスは、やはり、見かけのような幼い少女ではなく、異世界の住人なのだと、理解せざるを得なかった。つまり、エリスは、その気になれば、いつでも、いとも容易く相手を消すことが出来る、圧倒的な力の持ち主なのだということ。

 確かに、タケトやエミリが、折に触れ拓磨に言っていたし、エリスも『覚悟しておけ』だとか、『処分する』とか口にしていたが、それを目の当たりにしたのは初めてだった。それは、決して、高校生の女の子が、相手を威嚇するために言う冗談ではなく、純粋に、事実に基づく可能性を述べていたのだ。

 拓磨は、エリスに向かって色々言っているが、もし、エリスの機嫌を損ねたら……。

 言われてみれば、師団の誰1人、エリスに対して任務外の意見を述べる者などいない。

 いや、エリスの任務は、『拓磨の警護と移送』だったはず。なら、少なくとも拓磨に危害を加えることは無いだろう。

 そんなことを自問自答して、自分に言い聞かせないといけないぐらい、拓磨の目の前で起こっている出来事は衝撃的であったのだ。

 拓磨が今出来ることは、耳をふさぎ、情けなく地面に這いつくばることだけ。


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