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「あれぇ? 話が違うぞ?」
「『櫻井拓磨』の彼女って、格闘家だっけ?」
うって変わって明るい男達の言葉で、拓磨は、先ほどの可能性がほぼ確定事項に変わったことを悟った。
(どうやら、少尉の理解よりも、私の理解の方が正しかったようだ)
エリスは、何故か複雑な表情を浮かべながら、起きあがった。
「でも、真面目に行くから、まぐれも次は無いと思うよ?」
「かわいそうだけど、『千紗』サンだっけ? ここで処分させてもらうね。目撃者は始末しろと言う命令だし。陽界人をいたぶるのは趣味じゃないから、すぐ楽にしてあげるね」
ゆっくりと立ち上がったエリスに、男達は、恐ろしいことを楽しげに言う。
「なっ! 千紗に手を出すな! お前ら……」
拓磨が起きあがろうとしたのを、エリスは足で押さえつける。
「少尉、じっとしていろ!」
通常であれば、踏まれたという屈辱に『何をするんだ!』と怒る場面であろうが、事態の異様さと、エリスが拓磨を一瞥したときの、今までとは異なる有無を言わせぬ雰囲気に圧倒され、拓磨は、されるがままになっていた。
そのとき、エリスが軽く身体を左に傾けた。
金色の髪がふわっと揺れる。
直後、拓磨は、男達が何らかの攻撃をエリスに行い、エリスがそれをかわしたのだと判る。
ゴスッ
拓磨が奇妙な音がした方を慌てて見ると、男達とエリスの延長線上にある、赤字で『飛び出し注意』と書かれた、所々錆が浮いている白い看板が真っ二つに切断され、ゆっくりと田んぼの方に落下して行く様子が映っていた。まるで鋭利な刃物で切ったかのような、平らな切断面が見える。
確かに、起き上がっていたら、切断されていたのは拓磨だったかも知れない。
しかし、驚いたのは拓磨だけではなかったようだ。
「なっ! かわしたっ? これが見えるのか? お前は一体何者だ?」
明らかに男が狼狽しているのが見て取れる。
それはそうであろう。男達は、ほぼ間違いなく、エリスが言っている『敵』のはずだ。その敵が、陽界人である『千紗』(だと思っている)に攻撃をし、それが難なくかわされたとあれば、何事かと聞きたくなるのも当然だ。
第一、拓磨には、何が起こっているのか全く見えなかったのである。
再び、エリスが退屈そうに身体を動かす。
バシュッ
何かがスパークするような音がすると、先ほど残った看板が、まるで大根を切ったかのように2カ所で切断され、草むらに落ちていく。
「その程度か?」
エリスは眠そうに呟くと、スカートのポケットから手帳ぐらいの大きさの薄い板を取り出し、表示されるパネルに何かを操作し始める。
直後、エリスが板を放り投げ、同時に、その板が蒸発した。
怒りの表情をしていた男達に笑みが戻る。
「おっと、そうはいかないよ。……やはり王国の軍人さんだったか。あいにく応援を呼んでもらっては困るのでね。軍人さんなら、なおさら生かして返せないなぁ」
「正体が判れば何て事はない。それに、君達は既に我々の結界の中。チェックメイト……かな。何せ我々とは格が違うからねぇ、無謀な命令を押し付けた上官と自分の不幸を呪うんだな」
男達が、薄笑いを浮かべながら互いに目配せをする。




