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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[序章]戦場にて
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序ー2

「第3、4小隊はシールドを展開! 急げ」

 身長は180センチぐらいであろうか、大柄な男が叫ぶ。

 精悍な顔立ち、頬にある二つのキズが、堅気の人間でないことを示している。

 服と言うには簡素な物を身に纏い、腰には何やら長い棒のような物を下げている。

 その男に駆け寄る小柄な兵士。黒っぽい服を纏っており、腰に短剣を携えている。

「タケト少将! 第7部隊と連絡が取れません!」

「くっ、テイル、情報科とは連絡まだか!」

 報告に顔をしかめると、タケトは右前方を向く。

 テイルと呼ばれた者が、男の方を振り返る。白で統一された服、頭はフードで隠れているが、その顔つきから女性であることが見て取れる。

「だめだわ。定時連絡を最後に応答がないの。もう、やられているかも」

 テイルは首を傾げた。

「タケト。囲まれているぞ」

 長身で銀髪の男性が、タケトに囁く。

 こういう時でなければ、この男がかなりの美形であることがわかるであろう。

「まずいな」

「どうする? 落ち合うはずであった神官は現れず、何故か我々の監視を回くぐって現れた敵。どう考えても罠だ、これ以上ここに留まるのは危険だぞ」

 見た目から容易に想像がつくような、的確な意見にタケトは考える。

 見た目、とは、周りの状況であり、木々に囲まれた空間の向こうでは、明らかに人ならざる物の気配がひしめき合っている。爆音も聞こえるし、風に乗って何かが燃える臭いも漂ってくる。

 既に、半数近くの部隊とは連絡が取れていない。

「エリス中将は、……第十三科学系戦術師団はまだか?」

「相手方が通信封鎖をしているから、状況は判らないわ」

「あ、今は飯時か。……ついてないなぁ」

 テイルの言葉に、タケトは大きくため息をついた。

 ついで、厳しい顔で手元のパネルを睨み付ける。

 厚さ一ミリ程度の半透明のパネルには、細かい文字が並び、見て判るとおり、青いマークを取り囲むように赤いマークがその幅を縮めている。

「こいつ、使い方よく解らないんだよなぁ」

 タケトは、たどたどしくパネル上に指を走らせる。

「何をする気だ」

「何って、決まってるだろう。総員退却命令」

 タケトが「よしっ」とつぶやくと同時に、周りで無数の聞きなれない音が木霊する。


「なあ、カイ」

 腰から抜いた剣を、手持ち無沙汰にぶらぶらさせ、地面を突きながらタケト。

「なんだ」

 長身の男が、タケトのそばに行く。

「あの中将に伝えておいてくれ。『今日は腹ぺこだったのか?』って」

「自分で伝えろ!そういうことはな」

 カイがそっぽを向く。

 その先で、兵士が次々に地上に描かれた円形の模様の中に集結している。

「うーん、ま、しかし……」

 と言いかけ、タケトは宙を見つめる。

 カイもタケトの視線を追う。

 おおよそ、現在の混乱に似つかわしくない赤色の物体――紙飛行機――が空を舞っている。

 タケトの口端が上がった。

 〈紙飛行機〉は近づくにつれ徐々に大きくなり、それが、かなりの大きさであることがわかる。

 〈紙飛行機〉は、タケトと残り数メートルと言うところで、一瞬光り、消えた。

「遅いじゃないですか。エリス中将殿。まあ~お食事中にお呼び立てしたのは、私の落ち度でしたなぁ」

 タケトが笑みを浮かべながら言う。

「これでも最速だ。第一、私は、パンに手をつけたところで食事を中断し、駆けつけたのだがな。タケト少将……その軽口は軍法会議ものだぞ」

 タケトの胸ぐらいの身長、金色に光る長い髪、草色の衣装は肩から膝上まで一つの布で出来ていることがわかる。外見は少女のようにも見えるが、かなり落ち着いて見える。同じくあどけなさを伺わせる顔は、整っている。

 そのエリスと呼ばれた女性が、巨漢の男を半眼で睨み付けている。

「いや、失礼」

 タケトは、表情を改めた。

「分かればよい」

 エリスは、無表情で言う。

 しかし、地面を見た瞬間に、表情を動かした。

「だが、少将をそこまで追いつめたのは、私の不徳の致すところだ。謝る」

 エリスはうつむき、ぼそぼそと言った。

「あ? ああ、まあ、これは……なんだ」

 エリスの視線の先、タケトの足下に描かれている幾何学模様を足で消しながら、タケトはばつが悪そうに笑った。

「……万が一の保険だ」

「『破壊陣』……。この時代にそんな物を使う愚か者がいるとは思わなかったぞ。どうせ、 疲弊した身体だ。その身と引き替えにしても、たいしたエネルギーは望めない」

「どうせ愚か者だよ。俺は」

 その言葉に、エリスは口の端を上げた。

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