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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第2章]拓磨
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(3)任務

 四限の終了を告げるチャイムが鳴り響く。


 教室内に喧噪が戻り、それぞれが休み時間の準備を始める。

 購買部へと駆け出す者。

 ロッカーへ行く者。

 所属している部活の部室へと急ぐ者。

 それぞれの生徒が慌ただしく動いている中、拓磨とエリスは静かに腰を下ろしていた。

 拓磨は本日弁当が無く、内心は一刻も早く購買部へ駆けつけたいのであるが、この『危ない存在』を置いて、席を立つことがはばかられているのだ。


「エリス、昼ご飯の時間なんだけど、どうするの?」

 拓磨の問いに、エリスは、ゆっくりと拓磨の方を見た。

「無論、食べるが?」

 なにやら嫌な予感を感じつつ、拓磨はエリスの顔を見る。

「……弁当、持ってきているの?」

「いや、もうすぐ届く頃だがな」

 予感的中!

「ま、まさか、部隊が持ってくるんじゃないよね?」

 拓磨の質問に、エリスは小さくため息をついた。

「少尉は、どうやら私のことを誤解しているようだな」

 そんなやりとりをしている2人に、晋が近づいてくる。

 拓磨は、今この状態で晋を参加させたら非常に困ったことになる、と内心焦っていた。

 突然、教室のスピーカーから流れていた昼の音楽が途切れ、

『連絡します。1年10組、桜庭かなみさん、親御さんから届け物です。保安室まで来てください』

 ソプラノボイスの女性の声が用件を告げると、中断されていた音楽が再開する。

 がたがたとエリスが立ち上がった。

 教室の外に向かいかけたエリスが、はっと気づき、くるりと振り向くと、拓磨の方に戻ってくる。

「?」

 見上げる拓磨にエリスは、ちらりと晋を見、拓磨に視線を戻すと、小首を傾げ、

「あの、保安室ってどこかな?」

と、明るい声で拓磨に聞いた。

「ああ、そうか、じゃあ、一緒に行こう」

 拓磨は立ち上がり、晋に『ちょっと行ってくる』と軽くアイコンタクトをした後、エリスを促した。



「なあ、エリス」

 廊下を足早に歩きながら、拓磨はエリスをちらりと見る。

「何だ」

 前を向いたまま、エリス。

「一応さ、……なんて言うか、ここは学校だから、変な行動はしない方が良いよ」

 エリスが立ち止まる。

「今までの行動で、不都合があるのであれば、指摘してくれ。改善する」

 拓磨が振り向くと、怒っているわけでも呆れているわけでもなく、純粋に質問しているという表情で、エリスが拓磨を見ていた。

「……いや、今までは全く問題ないんだけど」

「では、問題なかろう」

 エリスは、歩き出す。

「うん、確かにそうなんだけど」

 拓磨は軽く右手を挙げ、エリスを促すと廊下を右に曲がる。

 エリスは少しの間黙っていたが、軽く息を吐き、拓磨をちらりと見る。

「少尉が……心配している事は、解っているつもりだ。私は、昨晩、この国の学生の行動について学んでおいた。だから、……大抵のことには対応できているはずだ」

 ここで、拓磨はいきなり立ち止まり、振り返った。

 エリスが、どんと拓磨にぶつかる。

「あ、ごめん。……もしかして、エリスはあれから、学校のことを勉強してたの?」

「そうだ。今学習している内容も、一通りは理解できているぞ? だから、もし、教師に当てられたとしても、問題ない」

 エリスが促すので、拓磨は再び保安室に向かう。

「すごいね」

 感心する拓磨に、エリスは目を伏せた。

「任務だからな」

 抑揚のない声を聞きながら、拓磨は考える。

『何故コードを覚えていない?』エリスは言った。

 拓磨は、そんなもの一晩で覚えられる訳がないと、端から覚えようとはしなかった。

 しかし、エリスはそう考えなかった。

 任務を遂行するために、拓磨を自宅まで送り届けてから、学生生活について、この学校について、頭にたたき込んでいたのだ。

 少なくとも、夜中の1時は過ぎていたはずだ。

 いったいどれだけのボリュームがあるのか分からない。

 初めて来た国の学生の生活など、どのぐらいまで勉強したら身に付くのだろうか。

 しかし、拓磨が見る限り、変な話ではあるが、エリスの『桜庭かなみ』としての振る舞いは、完璧だった。

 何故、そこまでするのだろうか。

 僅かなミスも作戦全体を揺るがしかねない、と言うことだろうか。

 それが、軍隊での作戦行動をしている、それを統率している長たる者の自覚なのだろうか。

 拓磨が顔を上げると、『保安室』と書かれた木のプレートが見えてきた。


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