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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第2章]拓磨
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(1)秘密

「……今日の中将は、あの陽界人に振り回されっぱなしでしたな」

「もう少し陽界のことについて勉強しておくべきだった。これは私の落ち度だ」

 男性と女性の話し声がする。

 ――タケトとエリスだ

「陽界人なのに、なかなか良い物を持っているのではありませんか?」

「当たり前だ。一筋縄でいかない事ぐらい分かっていた」

 ――僕のことを言っているのか?

 ぼんやりとした意識の中で、拓磨は考える。

「しかし、どうしたものでしょうか。この様子だと、また逃げ出すでしょうな」

「大佐も何か考えろ。奴らの手に下ることだけは避けねばならぬ。……それにしても、陽界は調子が狂うな」

「確かに、中将殿に何の恐れもなく喰ってかかるなど、我々の世界ではあり得ませんからね。一度とはいえ、中将を論理的にやりこめるあたり、我々には想像もつきません」

「か、彼のことを言っているのではない!」

「失礼しました! ……しかし、何か彼のことになると、やたら心穏やかならずですな、中将。まあ、確かに、彼は我々の常識が通らなく、正直私もいっぱいいっぱいです。国には居ないタイプですから、中将にとっても……」

 カサッと音がする。

「無駄口が過ぎるぞ。……明日の朝飯になりたいか?」

「あ、……そうそう! 明日の作戦を確認しなくてはいけません故、失礼します!」

 どたどたと音が遠ざかっていき、静寂が戻る。

 シンとした中、再び拓磨は、意識が混沌としていくのを感じた。

「お前達に何が解るというのだ」

 エリスが呟いたが、拓磨はすでに夢の世界へ旅立っていた。



 ――そういえば! 僕は崖から落ちたんだった!


 いきなり意識が覚醒する。

 覚醒した瞬間、拓磨は、自分が布団で寝ていることに気づく。

 ――もしかして、夢だったのか?

 徐々に意識がはっきりし、開いた目の焦点が合ってくる。

 黄色っぽい天井。

 ゆらゆらと陽炎のように光が揺れている。

 少なくとも、拓磨の部屋でないことは確かだ。

 拓磨は起きあがろうとしたが、何故か起きあがれない。

 そういえば、なんだか胸のあたりが重苦しい。

 ――やはり、僕は、死んでいるのか?

 しかし、死後とは、こんなにも現実味を帯びているものだろうか?

 拓磨は考える。

 身体の感覚は全てある。

 重力も感じる。

 ふと視線を胸の方に動かすと、拓磨は、起きあがれない原因を発見した。

 金色の髪の毛の少女が、拓磨の胸の部分にに突っ伏している。

「エリス?」

 しかし、返事はない。

 頭を少し上げ、エリスを見ると、エリスは寝息を立てていた。

 こんな状況であるが、エリスの寝顔は、まるで天使のようだ、と拓磨は思った。

 ――中将……か

 先ほど押し問答をしていた時の冷たい無表情とは違い、今は、あどけなさが残る少女そのものだ。


 ふと気づき、拓磨はズボンのポケットを探る。

 拘束はされていないようだ。

 手に覚えのある感触があり、それを取り出す。

 鈍く銀色に光る携帯電話。

 その、表示部分を確認する。

『着信あり 2件』

 ――たぶん、母さんだな

 ついで、現在が夜の10時を少し回ったところであることを知る。

 ――意外に時間が経っていないな

 エリスに連れ去られたのが、たぶん7時ぐらい。

 押し問答は30分もかかっていなかったと思う。

 それで、自転車で逃亡を試みて、崖から落ちて……。

 ――何でここに居るんだ?

「う……」

 拓磨が混乱する記憶を整理していると、エリスがぴくりと動く。

 そして、目を開けるやいなや、自分が寝ていたことに気づき、『しまった!』と言う表情を見せ、慌てて口元をぬぐい、顔を上げる。

 その視線がこちらを捉え、さらに自分の失態が大きな事を悟り、悔恨の表情になる。

「……起きていたのか?」

 ――見ていたのか? 見ていたよな?

 そう問うているエリスの目に対し、

 ――ええ、一部始終全て。

 拓磨が目で答えると、エリスは泣きそうな顔でうつむいた。

「ここ数日、寝ていなかったから……いや、そんな言い訳をしても意味がないな。ただ単に、私の自覚が足りなかったと言うことだ」

 初めて見る表情。先ほどの作戦室での無表情とは、あまりにも落差がある。

 このような姿を、部下達は知っているのだろうか? もしかして、唯一拓磨がその『隙』を目撃したのだろうか。

 中将と呼ばれているエリス。先ほど見ただけでも、ざっと千人の兵士。少なくとも、それだけの兵士を統率している総責任者なのだ。

 しかし、目の前にいるのは、少なくとも外見は、まだ年端もいかぬ不安に押しつぶされそうな少女そのもの。まるで、背負いきれないほどの様々な責務を必死に支えているような。

 拓磨が、何か声をかけようとした時には、無表情のエリスに戻っていた。


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