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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
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(4)-2


 復習してみたが、やはり、さっぱり理解できない。

「エリス。少し質問良い?」

「何だ」

 拓磨の物言いに、後ろで立っている兵士が気色ばんだが、タケトが目で制する。

「まず、とても基本的なことだけど、ここはエリス達の王国じゃないよね?」

「当たり前だ。我々は王国を発ち、陽界に来たのだからな」

 何を言い出すんだ、と言う表情で、エリス。

「エリス達は、その王国の軍隊? だよね」

「その通りだ」

 ここで、拓磨は一息つく。

 後ろではタケトが事の成り行きを、興味深そうに見守っている。

「では、次に、僕が入隊する件についてだけど」

「その必要性については、何度も説明したはずだが」

 用紙に視線を落としながら、エリス。

「うん。〈鍵〉のことについては解った。でも、聞きたいのはそのことじゃないんだ」

「じゃあ、何だ」

「僕に拒否権はあるよね? つまり、入隊するかしないか、ひいては、エリス達と行動を共にするかどうかは、僕が決めるわけだよね?」

「?」

 エリスは顔を上げ、拓磨をまじまじと見る。

 その瞳は、何を言っているのかさっぱり解らない、と言う感じだ。

 一呼吸の後、エリスは口を開く。

「王国では、軍事行動が最優先とされている。もちろん、平時には民間人に対して、何か行動を規制することはしないが、作戦行動中は、軍が要請した場合、民間人は協力をしなくてはならない。これは憲法で定められている」

 しかし、エリスのこの言葉に、拓磨は勝ちを確信した。

「エリスの国には、憲法があるの?」

「当たり前だ。王国とはいえ、規模的に、王の一存で何かを決定するには限界がある。また、権力を持った者が、私利私欲で国や人民を動かし始めたら、国が崩壊する。人間という奴は、懲りるということを知らない愚かな生き物だからな。そのため、憲法が定められており、我々はその憲法に則り、定められた裁量の範囲で判断し、行動するのだ」

 ため息をつきながら、エリスは説明する。

「僕の国にも憲法があるんだよね」

「?」

 拓磨の言葉に、再び沈黙するエリス。

「独立した国に、それぞれの憲法があるのは、当たり前だよね。そして、僕達の国は、少なくとも、知っている範囲では、エリス達の国に征服されていないはず」

「……」

 何かを言い返そうにも、言い返す言葉が見つからないエリス。

 後ろで、『ほう』とタケトが感心している。

「そして、僕達の国の憲法では、軍事行動……と言っても、軍隊そのものが定義されていないんだけど、とにかく、軍事行動とかよりも上位のレベルで、個人の自由で平等な生活が保障されているんだよ」

 ――まさか、社会科赤点の僕がこんな話をすることになるとは

 拓磨は、なんだか可笑しくなった。

「……つまり?」

 エリスは、強ばった表情で拓磨を見る。

 先ほどの自信から来るであろう無表情とはうって変わって、未知のことに対する対応に思考の大半を使用している様子だ。

 平たく言えば、余裕のない表情。

 変な話ではあるが、拓磨は初めてエリスの『表情』を見たような気がした。

「つまり、この場所での僕の行動は、あくまで僕が所属している国の憲法で定められるべきであって、エリスの国の憲法は適用されないってこと」

「!」

 エリスは『そういうことか!』と言った感じで、息を呑んだ。

 ほぼチェックメイトだ。

 あとは、大手を振って、エリス達におさらばして、家に帰らないと。

「これは、歴史の一大事だ。あの中将が、論理的にやりこめられるなど……」

 後ろで、タケトがぶつぶつと呟いている。

「大佐!」

「はっ!」

 エリスが、突然タケトの方を見た。

「彼の言うことは、確かに筋が通っている。しかし、我々も後には引けない。作戦参謀として、この事態を収拾する案はないか?」

 ここで、エリスが暴れ出すのではないか、と身構えていた拓磨は、あっさりと自分の非を認めたエリスに対し、感心する。

「確かに、ここは陽界です。我々の常識が通用しないことを考慮していなかったのは、我々の落ち度でした」

「陽界ねぇ……」

 タケトの言葉に、エリスは深々とため息をつく。

「……では、拓磨殿に、協力をお願いされてはいかがでしょうか?」

 タケトは少しの沈黙の後、答えた。

「……あまり良い案とは思えないが」

 そう呟き、しかし、エリスは拓磨を見上げる。

「行動を共にしてはもらえないか?」

「申し訳ないけど、無理」

 一瞬で、タケトの提案は終了した。

 両手で顔を覆い、天を仰ぐエリス。

 エリスの、意外にも素直な一面を発見した拓磨は、なんだかほほえましく思った。


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