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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
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(4)憲法

 焚き火の脇に設置されているテーブルについているエリスを見ながら、拓磨は、『とても大事なこと』を思い出した。

 ――隙を見て逃げ出すんだった

 拓磨は、全く自然にタケト達と談笑をしたりして、場にとけ込んでしまっていたのだ。

 そして、こういう場合、行動を起こすのが遅れるごとに、事態はどんどん悪い方向に向かっていくというのが世の常だ。

 エリスの後ろでは、巨漢の兵士が2人、剣を携え、直立不動で拓磨を見ている。

 拓磨の斜め後ろには、タケトが立っている。

 カイとエミリは、焚き火の脇で、なにやら喋っている。

 先ほど、拓磨が今立っている場所が臨時の作戦室であると、タケトから解説を受けた。

 エリスは、今回の作戦の総責任者だそうだ。

 タケトは第一科学系戦術部隊を率いており、エリスの部下。今回この作戦任務にあたり、作戦参謀を務めているらしい。

 その作戦室で、エリスは無表情のまま腕を組み、机を見つめている。

 視線の先には、B5サイズぐらいのなにやら書かれた紙が置かれている。


「『サイン出来ない』とは、どういう意味だ?」

 外見だけからすると幼さが残る顔を上げ、拓磨を睨み付ける。

 確かに、エミリの言う通り顔立ちは可愛らしい、と拓磨は思った。

 思った瞬間に、その思考を取り払う。

 現時点で、自分の置かれている立場が極めてきな臭い状況であるからだ。

 そして、目の前にいる少女が拓磨に不幸をもたらそうとしていることは、疑いようがないのだ。

「……」

 相変わらず突っ込みどころが多すぎて、何も言葉が浮かばない拓磨。

「タケト大佐!」

「はっ!」

 エリスが、拓磨の肩越しにタケトを見る。

 返事をするタケトは、先ほどと明らかに声音が違う。

「大佐は、彼の言っている意味が解るか? もし、解れば説明してほしい」

「いえ、自分もさっぱりであります!」

 そう言うと、タケトは拓磨を小突く。

 振り返り、見上げる拓磨に、タケトは目で訴えていた。

 (いーから、サインしとけって! 身のためだ)

 ――出来るわけ無いだろ! っていうか、いったい何の茶番だ?

 拓磨は、今までの状況を順番に整理しながら、思考を巡らせた。



 ほんの10分前、タケトと拓磨はエリスに呼ばれ、この机の前に連れてこられた。

 エリスは、机の引き出しから1枚の紙を取り出し、机の上に置いた。

 そして、まるで『今日の晩ご飯はカレーだよ』と言うような調子で、言ったのだ。

「今からお前は、我が第十三科学系戦術師団の所属となる。護送任務とはいえ、部外者と作戦行動を共にすることは、法律で禁じられている。従って、王国に移送する間、師団に所属し、作戦行動を共にすると言う建前だ。階級は……少尉、作戦室勤務とする」

 まるで事務的、拓磨の意志は全く加味されていない様子で、一方的にここまで言うと、エリスは、紙を拓磨に差し出し、ペンを横に置き、

「入隊申請書だ。ここにサインしてくれ」

 拓磨の方を見上げた。

 拓磨が唖然としていると、

「心配することはない。私がこの師団の最高責任者だ。従って、私が許可すれば、その時点で、お前は所属出来ることになる。文句を言う者はいない。また、作戦室への立ち入りは、王国の法律で少尉以上が認められている。従って法律上も問題はない」

 エリスは、まるで、そうすることが当然のように拓磨に説明した。

 ――説明になっていないんだけど

 拓磨は深呼吸すると、エリスを見た。

「えっと、そもそも、なんで入隊しなくてはいけないのか、さっぱりなんだけど。だから、サインなんて出来るわけ無いだろ?」

 拓磨の当然の発言に、後ろでタケトが『おいおい』と呟き、エリスは拓磨の顔を穴が開くほど見つめ、今に至る。


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