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第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第1章]下校中にて
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(3)師団

 拓磨が視線を前に移すと、小高い丘の向こうに山が迫ってきている。

「?」

 拓磨は、その山に見覚えがあった。昨日、登校中に気になって行ってみた山だ。

「なあ、あの山に向かっているのか?」

「そうだ」

 即答。

「ずっと、あの山にいたのか?」

「いや。我々の部隊が陽界に来たのが今日だ、現在、あの山にベースキャンプを設営中だ」

 ――?

 聞き慣れない単語を聞いたような気がしたが、とりあえず、拓磨の疑問は解けた。

 多分、彼女ではない……と。

 というのも、昨日、いつものように登校していたら、誰かに呼ばれた気がしたのだ。

 その呼びかけに近づいていったら、山にぶち当たった。

 あの山だ。

 さすがに、道のない山を登るわけにも行かず、また、登校中であることを思い出し、慌てて学校に向かったのである。

 ――おかげで、千紗には振られちゃったけどな

 拓磨は苦笑し、偶然だと結論づけた。

「バランスをとれ」

「は?」

 突然のエリスの言葉を理解できない拓磨。

「着陸する」

「?」

「聞こえているか? 着陸と同時に、自分でバランスをとれ。でないと、倒れるぞ」

「あ、ああ」

 まだ理解できなかったが、反論を許さない声音に、拓磨は、とりあえず生返事をする。


 言葉の意味が理解できたのは、突然、眼下に焚き火の光が見え、それに近づき、自分の身体に体重の感覚が戻り、頭上の赤い板が消え、同時に、自転車の車輪が地面に接触、バランスを崩した瞬間であった。

「わっ、わーーーーっ!」

 ガシャンという音を立て、横に倒れ込む拓磨。

 後ろのかごに入れておいた、青色の通学鞄が吹っ飛ぶ。

「あーっはっはっは。あ、笑っては失礼だな。俺も初めての時はそんなだったからな」

「大丈夫? 君?」

「着陸失敗」

 三種類の男女の声が、それぞれ耳に入って来た。

 そして、最後に、

「だから、言ったであろう。自信が無いなら、そう言ってくれれば、私が支えてやったものを」

実も蓋もないことを冷たく言い放つのは、エリスの声だ。

「いやー、中将殿、お役目ご苦労様。しかし、何か、彼の元気が無いようですが……、まさか、彼に対して、既に中将殿が何事かをなさった……ぐわぁ――――」

 拓磨が顔を上げると、大柄な男が紺色のマントを翻して全速力で走り回っている。

 そのマントは炎に包まれているが。

「タケト大佐。貴様は、その軽口でいつか命を落とすぞ」

 抑揚のないエリスの声。

 脇で、男性の静かな笑い声が聞こえる。

「カイ! 笑ってないで、水っ! 水っ!」

 タケトが走り回りながら、こちらの方を見る。

 拓磨が視線の先を見ると、細身で同じくマントを羽織っている背の高い男性が、目で笑いながら走り回るタケトを眺めている。

 両腕には、緑色と青色の腕輪をそれぞれはめている。

 銀色の長髪であり、細面の顔立ちは割と整っている。早い話、美形だ。

 カイが、ふう、とため息をつき、懐から手帳のような物を取り出すと、ぱらぱらとめくり、あるページを開いたまま、タケトの方に向ける。

「ウォーター」

 カイのつぶやきと同時に、腕輪が青白い光を発した。


 ザバーーーッ


 不意に起こったバケツの水をひっくり返したような音の方を向くと、タケトがずぶ濡れになって佇んでいる。

「カイ、もう少し優しくやってほしかったのだが」

「焼け死んだ方がましだったのか?」

「いや、……感謝している」

「そうか。ならよかった」

 拓磨が、冗談なのか本気なのか解らないやりとりを見ていると、突然、ぽんっと肩を叩かれた。

 びっくりして見上げると、女性が拓磨に手を差し出している。

「立ったら? それとも、そうしているのが好きなのかしら?」

 女性は地面にはいつくばるようにしている拓磨に向かって、微笑む。

 こちらは、紺色のぴっちりとした服を着ており、すらっとして背が高い。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという、おおよそほとんどの女性が憧れるようなスタイルをしている。

 いや、拓磨ぐらいの歳の男子にとっても、憧れだ。

 少し大人びた顔は、やはり整っており、黒髪を肩胛骨のあたりまで伸ばしている。

 カイと同じように、青色と白色の腕輪を左右の手首にしている。

「あ、ありがとう」

 女性に引っ張られ、頬が上気するのを感じながら、拓磨は立ち上がる。

 残念なことに、拓磨より僅かに背が高い。

「私はエミリ。第三科学系戦術部隊所属よ。エリス中将率いる、第十三科学系戦術師団の下で、作戦行動をしているの。まあ、ここにいる連中はみんな同じね。私の直属の上司は、あの根暗野郎だけどね」

 エミリは、カイを指さした。

 エミリは拓磨の方に向き直ると、おもむろに顔を近づける。美人にそういう態度を取られると、その気がなくても、心臓が高鳴ってしまう拓磨がいた。

 エミリは、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、

「中将はね、あんなかわいい顔して、本気を出すと、この地球を3等分出来るぐらいの力を出せるの。だから、あなたも命が惜しければ、逆らわない方が良いわ。さっきのタケトみたいな目に遭いたくないでしょ?」

 拓磨に耳打ちし、たき火の方を見た。

 たき火の脇で、ぼんやりと炎の動きを追っている、少女がいた。

 向こうを向いているので、『かわいい』かどうかは判らない。あの、抑揚のない、冷静な声にぶっきらぼうな言葉遣いからすると、とてもそうは思えないが……。

 緑色の簡素な服装。

 半袖のワンピースだ、もし、こちらの?服なら。

 腰の辺りをベルトで止めている。

 スカートの部分から、ちらりと茶色っぽいスパッツが見える。

 時折吹く風になびく髪は、透き通った金色をしており、たき火の光に反射すると、なかなか幻想的だ。

 1つだけ特記するとすれば、背が低い。拓磨の肩よりも低いだろう。145センチ、いや、140センチぐらいか?

 エミリとは正反対で、胸もなさそうだ……って言った瞬間に、タケトみたく火だるまだな。

 拓磨は苦笑した。

 要するに、見た目は子供だ。

 なのに、中将とはこれ如何に。

 中将が、軍の組織でかなり上のクラスであることぐらいは、拓磨でも分かる。


 ぼんやりとエリスの後ろ姿を眺める拓磨は、しかし、何かとても大事なことを忘れているような気がしていた。


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