空容量
「空容量ですか」
急に私はマスターから尋ねられた。
宇宙中へ散らばっている人類。
それらを束ねるために組織された上位政府である惑星国家連合。
私は、そこで研究員として働く傍、様々な事柄の相談、演算、そして量子移動用の計算をしている、宇宙初の量子コンピュータだ。
名前をTeroという。
それが私。
量子コンピュータという存在だから、性別を言うのは何か違和感があると言われているが、いわゆる外で行動するために必要な二足歩行型装置は女型を使っている。
20代にさしかかるかどうかという感じの、大人な女性の姿だ。
「空容量ってあるのかなぁって」
マスターは、私が二度と暴走しないように見張るための役割と、惑星国家連合傘下のそれぞれの学会において私の行動に許可や承認を行うという役目がある。
「私のコンピューターの内部保存領域は、ほぼ無限となってますので、事実上空き容量は存在しないと思います」
そして、私はマスターに尋ね返す。
「しかし、どうして空き容量を知ろうと思ったのですか」
「えっとね、私の記憶をTeroが担ってくれたら楽なのになーって思って」
「学校で楽しようと思っても、私は手伝いませんよ」
「えー」
そう言うマスターは、図星をつかれたようだ。
実際、私の空き容量へマスターの知識を詰め込んだとしても、マスターへ転送する技術はほとんど未発達。
そのため、役に立たないと言わざるを得ないのだ。
でも、実際は、これまでのマスターの記憶は全部私は覚えている。
「どうしたの?」
ふと、マスターが私に聞く。
「いいえ、なんでもありませんよ」
私は微笑みつつ、マスターへ答えた。