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第三週の3

「追試落ちちゃた……」


 なに?


「普通落ちないだろ!」


「ごめんなさい! でも、お盆前に追試の追試をしてくれるって……」

「追試の追試って…… なんだそりゃ」

「エヘヘ……」


 杉田は、なにやら照れ笑いをしている。


「それより、旅行はいつ行こうか」


 言うに事欠いて、言いたいことはそれか……


「まったく。追試に受かったらだろ」

「だよね……」


 心なしか、杉田の表情が曇った。


『早苗ちゃんのお父さんは商社に務めているみたいで海外出張や転勤が多いんだって』


 そうか……


「杉田……」

「なあに?」

「お前はいつまで日本にいるんだ?」

 ・

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 ・

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「いるよ。ずっと」

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「はい? あれ?」

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「なに!?」

 ・

 ・

「親父さん海外転勤多いんだろ?」

「お父さんなら今も海外だよ」

「一人で日本にいるのか?」

「そんなわけないじゃない。おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしてるよ」




 謀られた……




「でも、なんで知ってるの?」

「ああ、西村から……」

「え?あ?じゃあ、もしかして……」

「知ってる」


 たぶん……


「きゃー!」


 また、逃げた……


 やれやれ……


「西村。いるんだろ?」

「ふふふ、バレたか」

「まったくお前は何がしたいんだよ」

「さっき言ったけど?」

「そうですか」

「私は早苗ちゃん恋路に協力しただけ。後は君しだい。じゃない?」

「わかったよ」

「別に無理しなくていいよ。いい思い出にはなったでしょ?」

「なんだよ、いい思い出って?」

「一夏の思い出作り」


 このアマ……


「さあて。私の役割はここまで。後は二人でご自由に」


 そう言い残すと、西村は立ち去った。



 ・・・



 夕方。前に二人で行った駅前のジャラート屋で杉田を見つけた。


 俺がいることに気がつくと杉田は小さな声でつぶやいた。


「ごめんね……」

「許せねえよ」

「うん。そうだよね。手伝ってもらったのにごめんね」


「杉田が追試に落ちたのに、内心喜んでいた。また毎日、勉強で一緒にいられるかも。そう思って内心喜んだ。そんな自分が許せねえよ……」

「え!?

 そ、それは、あの、わたしも、その」


「早苗!」

「は、はい!」

「次の追試は絶対受かるぞ!」

「はい!」


「そしたら、旅行に行こう……」


「うん!」




 満面の笑だった。




「お盆まで9時〜5時で勉強な」

「えー」

「毎日付き合ってやるよ」

「えへへ、なら、うれしいかも」

「遊びじゃないぞ」

「わかっているって……」



 ・・・



「うまくいった?」

「たぶんね。二人ともハッキリしなくてイライラするけどね」

「なら良かった。でも、なんで彩乃はこんなことをしたの?」

「別に。ただ、チラチラ男子を見ている早苗と早苗をチラチラ見ている男子が気に入らなかっただけよ」

「ははは……」

「鎌倉であれだけの事を仕組んでもくっつかないのよ! 呆れるわよ!」

「はいはい。お疲れ様。今日は僕がおごるからマックでも寄って行こう」

「いいねー、千円マックでヨロ」

「う、それ勘弁」

「だめ〜 今日はおごってもらう!」



 ・・・



 遠くでカップルが話声が聞こえた気がした……





 またあしたから、早苗との勉強の日々が続く。でも、それを楽しみに感じた。

 夕日がビルの影に隠れ、街は次第に薄暗くなっていった。

 そうだ、旅行の計画も立てないといけないな。




 なにやら今年は忙しい『なつやすみ』になりそうだ。

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