第三週の1
次の日の朝。9:00ピッタリに追試がは始まったようだ。
別に待っていてあげるほど、たいそうなものではないが、朝から図書館で杉田の追試が終わるのを待っていた。
追試とはいえ、期末試験のやり直しでしか無いわけで、答えが解っているのだから最悪丸暗記すれば追試をパスすることは可能なのである。
杉田はこの試験にパスして、俺の役割も終わり…… 後は普通に夏休みを過ごす……
そう、通常に戻る。それだけ……
「感傷に浸っているのかしら?」
「そんなんじゃねえよ」
「明日から早苗ちゃんに会えないじゃ、寂しいでしょ」
「そうだな」
「そこは否定しないんだ」
「嘘ついてもしょうがないだろ。なんのようだ、西村」
図書館で待っていた俺の横にいつの間にか西村が座っていた。
「事の顛末を確認しに来たのよ」
「くだらねえ事しやがって」
「夏休みに二人で勉強する男女。いつの間にか好意が恋心に代わり、そして真実の愛に……」
「頭湧いてるのか?」
西村がなんで俺と杉田をくっつけようとしたかはわからないが、見え見えすぎる展開に何も気が付かないた奴がいるだろうか。
ただし、ここでの問題は杉田では無い。西村の真意だ。
「さて、教えてもらおうか。何を隠している?」
「聞いたら後悔するかもよ?」
「そうなのか?」
もったいぶってるな。こいつ彼氏ができてから性格悪くなってないか。
「早苗ちゃんがにお礼がしたいから手伝ってって言われたの」
「お礼?俺に?」
「そ、君にね。たぶん鎌倉の件じゃない」
「俺に礼を言うんじゃなくて、お前に文句を言うのが正解じゃないか?」
「うるさいわね。あの時はしょうがなかったの」
「わかったよ。で? なんでお礼が勉強なんだ?」
「勉強は口実なのは気がついていたでしょ?」
「ああ」
「『男子なんて女子と一緒に入られるだけで嬉しいものなのだから、夏休みに一緒にいてあげたら』って言ったの」
なんて理屈だ。いや、まあ、嬉しかったし、楽しかったのは事実だが……
「そんな訳で君は早苗ちゃんと一緒で楽しい夏休みを過ごしたというわけ」
「お前なあ……」
「まあ、それに…… 早苗ちゃんの想いもあったんだけどね」
「……」
「早苗ちゃんが海外にいたのは知っているでしょ」
「ああ」
「早苗ちゃんね、片親なんだよ。お母さんは早苗ちゃんが小さい頃に亡くなったって言ってた。お父さんは商社に務めているみたいで海外出張や転勤が多いんだって」
そう言うことか。『外国で住んでいたところはみんな友達でみんなニコニコしていたよ』そうじゃない。みんな杉田を哀れんでいたんだ。だから優しかった。そして、杉田もそのことに気がついていた。無理をしているわけじゃない…… 無理が当たり前になっている…… 哀れな少女と思われたくない。それがあの笑顔の正体か…… だから、どこかうそ臭い。どことなく寂しい……
「でも、日本に帰ってこれて、日本で高校にも入れたのだからいいじゃないか」
「だから言ってるじゃない。早苗ちゃんのお父さん海外転勤が多いんだって」
「おい。まさか。本当なのか? いつなんだ?」
「本人から聞いたら? 早苗ちゃん言ってたよ『日本にいる間にたくさん思い出作るんだ』って」
思い出? 冗談じゃない。杉田はまた海外に行ってしまうのか? 俺は思い出を作るために勉強を教えていたわけじゃない。別れるために出会ったわけじゃない。でも、どうすれば……
「私の出番はここまでね。後は二人で、二人の物語を作ったら。悲哀でも相愛でも、ご自由に」
西村は去っていった。
どれくらい時間が経っただろうか。考えがまとまらない。杉田が海外に行ってしまう。もう会えなくなるかもしれない。
思い出づくりの時間は終わった。楽しい時間は終わった。待っているのは別れ。現実が待っている。
それも杉田が望んだ事なのだろうか。
正午をつげるチャイムが図書館に響き渡る。
追試が終わった……
しばらくすると杉田が図書館の入り口に現れた…… そのまま立ち尽くし、中に入ってこようとしなかった。
唇を噛み締めて、目には涙を浮かべていた……




