一筋の光
「え。え、えーーー!!」
告げられた真実に、思わず叫んでしまう。
そんな、だって、あたし。信じてたのに!!
「詐欺だ! 偽造だ! 理不尽だっ!!」
あたしの心からの叫び声は、ある意味元凶の我が家の女王。姉ちゃんのどなり声に阻まれた。
「うっさいわね! 近所迷惑とあたしに迷惑よ!!」
心底不機嫌ですと化粧でフル装備すれば、大変うるわしゅうお顔を歪められた。今は装備前なので天然物の普通顔。
「だって、だって!」
いい訳めいて声を張り上げてしまう。だって、あたしの一筋の光がっ!!
「お兄ちゃんが、あたしと血が繋がってないって!!」
「はあ?」
あたしの主張。
心底、心底、真面目で、真面目な、あたしの主張は姉ちゃんのマジでいみ不明顔と、呆れた声で跳ね返される。
「あんたね、今時の幼稚園児だって分かってるわよ。いーい? 赤の他人じゃないと結婚なんて出来ないの。そんでもって、あたしが、こいつと、結婚したからこいつはあんたの義妹なの。理解できた? understand?」
姉ちゃんの、アホらしいと思っているのがバレバレな、ゆっくりと親切めかした解説と、ばかにした顔が腹立たしい。
「ほら、あんたの足りないおつむでも理解できたら、こいつと兄弟になれた幸運をあたしに感謝しなさい」
ほらほらと、長めのそこだけは綺麗だと認めてやってもいい、脚を女王様のように組んであたしにドヤ顔を向けてくる。
「な、にさっ、なにさ!! 姉ちゃんなんかどうせ養殖もんじゃん!! 天然で綺麗なのはお兄ちゃんなんだからねっ!? そんなお兄ちゃんと血が繋がってないんだよ!? どれだけショックかなんて分かりきったことじゃん!!」
「それに! それにっ!!」
「あたしが感謝するとしたら兄ちゃんだし! こんな女王様ぶる養殖綺麗顔の姉ちゃんと結婚してくれてありがとうって!!」
ノンブレス。
言いたい事を多分全部、出せるだけ出し尽くしたあたしは肩で呼吸をしていると。
「あんたねぇ」
ひくい。
それはそれはこの世のものとは、思えないほどの冷え冷えとした悪魔。いや魔王の怒気が孕んだ声が聞こえた。
その威力に、いままでの記憶に、体は反射的にびくりと震えだす。
がたがたと、かみ合わない歯の音がする。寒い。冷や汗が流れ出て寒い。
この部屋寒いよ。
なんて、しーえむをパックってなんかみたりした現実逃避はこれっぽちの意味もない。
生理的にあふれ出そうな涙を浮かべて、さっきから一言も喋らないでただただニコニコ姉ちゃんのそばにいる兄ちゃんに助けを求める。
へるぷみー。
うるうるとさせた瞳。お兄ちゃんとは何の血のつながりのない事が判明した家の平凡顔では、子犬様のあの瞳には到底かなわないけれど。
いたいけな少女のうるうるおめめ。いたいけな、心情的な意味でかわいい妹のピンチですよ。
お助けアレ! お兄様。
「お、おにいちゃ……」
かちかち言う回らない口で助けを求めようとしたら。
皆まで言う前ににこにこ笑顔で断られた。
「ごめんね。さっちゃんの事は可愛いけれど、僕はゆうちゃんの旦那さんだから」
…………けれどそうだった。
お兄ちゃんに泣いてすがっても、女王様の犬の主はしょせん女王様。
あたしの味方に、なりはしない。
「ふっ、え」
その間にも、魔王の怒気はしぼんで自然消滅なんてする事なく膨らんでいる。
「あんたねぇ、あたしと同じ顔してよくも言いたい放題いえるわよねぇ。自分の顔鏡でよーくみなさいよ。こいつの影の形もあったもんじゃないでしょう? 血の繋がった兄弟だったらいつかは、なんて思ってたかもしれないけど残念でした。永久に無理です」
「諦めなさい」
最終告知。
あぁ。哀れあたし。
家でただ一人の綺麗顔にいつかはあぁなれると思っていたのに。
あたしの夢は、若干一桁で破れてしまいました。
あぁ。あたしの幻の綺麗顔。
どうしてあたしは平凡顔家庭に生まれてしまったのか。