ひとり
俺の父はいつでも忙しい。
だからして、いつでも俺は一人で夜も昼も朝も食事する。
自分の分の調理など手馴れたものだ。
父は日々を仕事に費やして、この家には偶に寝に帰ってくるようなもの。
いつ父は家にいて、いつは居ないなど俺に分かるはずもない。
珍しく数日家に居ると思えば、数日後に帰ってきたりして初めて、あぁ、居なかったのかと思う程度だ。
母は、そんな仕事人間の父に愛想をつかして俺が中学の時に出て行った。
それから俺は父がしない家の事を全て、自分でしてきた。
炊事、洗濯、そこらにいる女子高生、クラスの女子共より出来るものだと自負している。
父は俺が子供の頃から変わりはなく、授業参加は当たり前、小学校の六年間、数多ある行事の数々を不参加で貫いた。
六年もあれば充分で、俺は父に一切の期待をしないことにした。
同様に、母も俺と似たようなものだったようで男は男同士と言うわけだったのか、一人で出て行った。
思春期頃だったので特に母親の必要性もなく、逆に自立心を養えた。
母は居なく、父も帰っては来ない、そんなこの家は一人だけの俺には広すぎる。
静まり返る家の中、人の気配のない廊下。無駄に掃除に手間が掛かる。
どうせ帰らない家ならば、こんな広さは必要ないだろうに。
俺ももうすぐこの家を出て行く。
父は一人、この広い家でどうやって暮らしていくのだろう。