第4話 大人の余裕
それほどたたないうちに笹本はやってきた。
「待った?」
「んーん、今来たとこ。」
「は?」
「うそうそ。一回やってみたかったの。」
「ああー。俺も。」
自販機までは塾から5分程。往復で十分笹本といられる。
、、、いられる?!、、あたしよく考えたらジュースより笹本と一緒にいたいからついてきたのかも、、。
「おまえ進路とか考えてんのか?」
ふと横を見上げると笹本があたしを見つめていた。
「当たり前じゃん。三年生なんだから。」
よほど心配なのだろう。あたしが馬鹿だから。
「そっかーがんばれよ。」
「うっうん。らしくないじゃん?」
あたしは笹本がいつもみたく返してこないことが気になっていた。
「笹本っていつ進路決めたの?」
道のまわりの木々からはセミの泣き声がしっきりなしに聞こえる。
ふふっと笹本が微笑んだ気がした。
「、、俺まだ決まってないよ?」
「、、は?」
一瞬セミ達の声が止まった気がした。
「俺の頭で受かる大学受けて受かっただけ。」
「あ・そう。」
それからなんにも話さず自販機についた。
「どれ飲む?」
あたしはひととおり売ってるジュースを見たけど飲みたいのがなくて、というより飲みたくなくなって、
「いらない。」
「え?どれ?」
聞こえなかったのか笹本は言う。
「いらない。」
「ははっ俺大人だからそんなわがままにも動じないよ。」
笹本は5分して喉のかわきを潤す事が出来た。
「はーうめぇ。おまえ何の為に付いてきたんだ?結局?」
「5分前まではジュースがほしかった。けど今は残念で。」
「進路の事?」
「別に。」
「わかりやすいね、おまえって。かわいい。」
「、、それが飲みたい。」
「コレ?いいよ。」
と、笹本は自販機にお金を入れようとしている。
「ちがうよ。笹本の持ってるそのジュースだよ。」
十円が地面にチリンと落ちた。
「ほんっとおまえってませてんな。その小悪魔な笑顔でどんだけの男泣かせたの?」
結局同じジュースを買ってもらい塾に戻った。
今通ってきた道からはセミの泣き声が遠くに聞こえていた。