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エトセトラボックス  作者: 鈴木真心
リアルビューティー
7/25

喜んだんです。

さてさて。

大学はもうすぐ夏期休暇、いわゆる夏休みに入る訳で。



「嬉しい!嬉しい!ちょお嬉しいです事務長!」


「そ、そうかね。」



若干引き気味の事務長相手に、あたしは、ガッツポーズでそう宣っていた。


そうは言っても。

あたし達は二ヶ月近く丸々休みがある訳じゃない。

後期からの講義申請やその他に備えて、それなりに仕事はあったりする。


あ、講堂の掃除の手配しとかなきゃな。

夏期の資格講座のスケジュールも作っておかないと。


ある意味、いろいろなことに追い込み作業はあるものの、それでも緩む口元は隠せなかった。

何故ならば。



「あっかりさーん。」



ばたーんっと事務室のドアを勢いよく開けて乗り込んできた美人が、あたしの元へと、一直線に駆けてくる。


だって、

だって、

夏休みとなれば。



「こいつがいないんですよ、事務長!」


「ああ、そういうこと。」



聞いてもいない事務長に笑顔満面でそう言えば、納得したのか、事務長は苦笑でそう返した。



「何の話?」


「うふふふふ。」


「気持ち悪いよ、あかりさん。」



うっさいわ!

何とでも言うがよろしい!

今日のあたしは挫けない!

強い子元気な真壁あかりですから!



「強い子元気って。」


「モノローグ読まれたって平気だもんね!」


「それ、グリコだよね?」


「ちょっと聞いてんの?」



がっと奴の襟首を掴んでがっくんがっくん揺らしてやる。

教えてやる、教えてやるともこの朗報を!



「もうすぐ!夏休みだから!あんたと!会わんで!済むんだ!ヤッホー!」


「テンション高いねー、あかりさん。」



天高く拳を突き上げたあたしと、揺さ振られながらもにこにこしてるこいつ。

どちらにかは知らないが、微妙に温い視線が、間違いなく注がれていた。



「けどねーあかりさん。」



このときのあたしは。



「盛り上がってるとこ悪いけど、」



まだ、



「…何よ?」



まだ、



「…言いにくいんだがね、真壁くん。」


「…何ですか事務長。」



まだ、知らなかった。


明後日の方向を向いた事務長が、申し訳なさげに告げた真実を。



「実はその…久留米くんのとこのサークルがね、夏休みに旅行に行くんだが…。」


「行けばいいじゃないですか。」


「あかりさんも行くんだよ。」



…はい?


え、何で?


奴の襟首をひっ掴んだまま、ぽかーんと事務長を見詰めること数秒。



「大学の宿舎の食堂係が辞めちゃってね、学長がよろしく頼むってうちに言ってきたんだが…」



つまり。


そうは言われても、事務室職員は皆既婚者で。

スケジュールの都合上、たまたま空いてたあたしに白羽の矢が立っちゃった訳で。

しかも。

そのサークルとやらにこいつがうっかりいたりしちゃった訳で。



「………マジでか。」


「マジだよ。」


「…すまんね。」



明後日を向いたままの事務長のつるっぱげに目を細め、あたしは密かに、涙を飲んだ。



「楽しみだよねー。」


「…そうだね…。」



がくりとうなだれたあたしの横は、対照的にキラキラエフェクトで眩しく。


また、涙が出た。


お母さーん!

あなたの娘は、何だか泥沼ですよー!


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