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エトセトラボックス  作者: 鈴木真心
リアルビューティー
6/25

大事なんです。

カタカタとパソコン画面に向かうあたしの顔は、きっと、出来る女そのものに違いない。


違いない!

そうに違いないわ!



「真壁くん、その…」


「何ですか。」



おそるおそるといった感じで話し掛けてきた事務長に振り向きもせず、手も止めず、短く応える。


今いいとこなんです。

邪魔ならしないでくださいませんかね。



「それはその…いいのかね?」


「何がですか。」


「何って、その、うーん…。」



言葉を濁す事務長の言いたいことはわかる。

わかるけども。


今しかない!

今しかないんですよ!

わかってくださいよ、事務長!



「大丈夫です、今日の仕事は終わってますから。」


「そ、そうかね。それはいいんだけどね、真壁くん…。」



事務長うるさいな。


そう思って振り向こうとした、


そのとき。



「でもねーあかりさん。それ、個人情報だよ。」



のしっと背中に感じた重みと体温。

華奢に見えても、やっぱり男なんだなあとかうっかり思わせるそれ。


出た!

予定より早い!



「…離れてくれないかね、久留米くん。」


「久留米くんだなんて、やだなー。航太って呼んでくれていいのに。」


「呼ばんわ!はーなーれーろー!」



事務長そっちのけでぎゃあぎゃあと藻掻くあたし。

久留米航太の腕はあたしの肩に回されたまま、それでも離れることはなかった。



「何でいるのさ!?今はまだ講義中な筈でしょうが!」



自由のきく右手で、ずばっとパソコン画面を指した。


そう。


あたしはこいつのしつっこいベタつきとお誘いから逃れるために、こいつのスケジュール一覧を作成してるとこだったのだ。



「言っとくけど!データベースに侵入した訳でも、あんたの手帳盗んだ訳でもないかんね!」



尾行という正規の手段により手に入れた情報なんだから!

文句は言わせねえ!



「あ、そうか…なら、いいんだけどね。」



そんなことを漏らしてから事務長がほっとしてたけど。


今はそれどころじゃない。


腕を剥がすのに躍起になっていれば、むかつくほどに綺麗な笑顔で、むかつくほどに綺麗な指が、


ぱちっと、


パソコンの電源を、切った。


切った…

……切った?



「なああああっ!!???」


「今の講義ね、小テスト終わったらあがりだったんだよね。」


「聞いてねえよ!」



そんなことは聞いてない!

あんた今、あんた今、何しやがったんだー!!!!!



「さっき聞いたじゃん。」


「あああああ…あたしの、あたしの努力の結晶が…」



がっくりとうなだれたあたしの耳元で、むかつく美人が、甘く甘ーく囁きを零した。



「…そんなに俺のこと束縛したいの?」



ああ、神様。



「あ、あかりさんもう仕事終わったんでしょ?ご飯でも食べ行こう。」



どうしてこんな。



「それからさ、あかりさんのこと食べてー…」


「いい訳あるかー!!!!!」



アッパーカットを繰り出すも、難なくそれは躱されて。



「さあ行こう!すぐ行こう!」


「やだあああああ!」



またもや引きずられるように荷物ごと抱えられたあたしが、奴から逃げ切れたのは。


結局、ご飯を食べた後だった。



「可愛いなー、あかりさんってば。」



走って逃げたあたしは、奴がそう言ってくすくす笑っていたことなんて、もちろん知らない。


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