1
暗い感じの不倫ネタ。
堕ちたとしても、それはそれでいいとさえ思った。
貴女が一緒なら、どこまでもとさえ、俺は本気でそう思っていた。
隔てる薄く滑らかな皮膚でさえ、今は酷く邪魔に思えた。
こうして個体である限りそれはどうにもならないことであり、交わることで融解してしまえばなど、到底不可能な幻想に過ぎない。
淫らにシーツの波間を泳ぐ貴女を捉えている筈の行為も、事が済めば、一瞬の様に思えた。
「…どうしたの?」
はあ と軽く吐息し、甘美な余韻を残す潤んだ目を向けて、ひとみさんが身じろぎをした。
そんな姿を見せるのが俺だけでないことを考えると、それこそ、焼け付く様な嫉妬が胸を渦巻いていく。
「…ひとみさん、が。」
白く豊かな胸元に顔を埋め、縋る様に腕を巻き付けた。
「…ひとみさんが、俺のものじゃ、ないから。」
くぐもった声は自分で思うより頼りなく、それこそ、母親に泣きつく幼子そのものだ。
くすくすと、小さく笑った音がする。
いっそ嘲笑であったなら、貴女を殺して俺も死ぬのに。
「貴方らしくないわね。」
優しく俺の髪を梳き、ひとみさんはそう零した。
確かに今までの俺らしくはない。
散々と言ってもいい程女を漁って、寧ろ、漁らずとも寄ってきたそれらを右から左へと流すが如く食い散らかしてきた。
愛なんて存在はどうでもよかった。
只の欲の捌け口として、口実程度に口にしたことしかなかった。
回した腕に力を込めれば、細腰は容易く折れてしまいそうで。
プライドの高い俺は、旦那と別れてくれとは、きっと、口が裂けても言えないから。
「…このまま死のうか。」
真昼の見えない星に揺れて、掴めない星に焦がれて、誰かを殺めてしまう前に、せめて、せめて俺と一緒に堕ちて。