取るに足らない関係
昨晩、母は帰って来なかった。
当然といえば当然だが、がらんとしたリビングに、胸くそ悪く思った自分がいた。
現状で冬吾さんは母の恋人であり、泊まったのならすることなど知れている。
それがわからない程子供ではないし、出会いが出会いだからこそ、嫉妬するだけ馬鹿げていることも頭では理解していた。
眉間の皺を伸ばしながら悶々とする思考を振り払い、まだ残るアルコールを飛ばすべく、バスルームへと、足を運んだ。
「おはよう和希。昨日はどうだった?」
いつもより早く着いた会社に入れば、ちひろが笑顔で近づいてくる。
どうだったかと言えばある意味手応えはあったが、もちろん、そんなことを言うつもりはない。
「いい人だったよ、よく出来た人。」
「よかったじゃない。」
自分のことの様に喜んでくれたちひろに、少しだけまた、眉間に皺が寄った。
母に対しては感じなかった罪悪感。
ちひろに対して感じるのは、間違いなくそれだ。
「ごめん。」
「いやね、何のことよ。」
きょとんとして微笑むちひろは、良き同僚であり、良き友人でもある。
「…心配させてってこと。」
本心を言えないからだとは告げずに、また、嘘を重ねたことに。
全てに対しての謝罪を口にして、笑ったわたしは、やっぱり狡い。
「いいのよ。」
それから他愛ない話をして、ランチの約束をしてから席に着く。
昨晩片付けた筈の書類の上には、初めて目にする、わたしのものではない新たな書類が積まれていた。
思わず深い溜め息を零してから、隣の席に視線を投げる。
いつの間にか出勤していた席の主は、へらっと笑ってそれに応えた。
「…松本、どういうこと。」
「おはよう葛城。」
「おはようじゃないわよ、これ、あんたの仕事じゃない。」
よく言えば柔らかな笑みを浮かべる、悪く言えば気抜けた雰囲気の彼は、ちひろと同じく同僚の松本春日。
地毛だという柔らかな茶色の髪をふわふわさせて、にこやかな顔でわたしに仕事を押し付ける曲者だ。
「昨日の内に仕事片付けてたみたいだから、少し、手伝ってもらおうかと。」
悪気なく笑うそれも、既に、日常茶飯事である。
「少しじゃないわよ。」
どれだけ押し問答をしたところで、結果は既に見えていた。
また溜め息を吐きながら、肩を落として、仕方ないながらも書類に目を通すことにした。
このページ自体がまた書き途中……。