表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エトセトラボックス  作者: 鈴木真心
荻窪ブルース
15/25

3

アパートでぐだぐだしていれば、呼び鈴さえ鳴らさずに深雪が入ってきた。


「ただいまでーす」

「何あんた、ここに住んでんの」

「そんなもんですね」


手にはしっかりと合鍵が握られていた。

いつ作ったんだとか、もう面倒でどうでもいい。


「さ、芋育てますよ先輩」

「芋?」

「家庭菜園キット買ってきたんです」


よいしょっとあたしの目の前にそれを置いて、やる気満々に腕まくりをした深雪を見上げた。

芋だろうがトマトだろうがどっちだっていいけども。


「うちで育てんの?」

「他にどこで育てんですか?」

「あんたんちでやれば」

「うち引き払ってだいぶ経ちますよ」

「あ、そうなの」


ずいぶんとうちに居座るなと思ってたけど、何だ、もう住み込んでたのか。


「て、おかしくね?」

「まあまあ」

「もしかして体狙い?」

「先輩がDカップだったらそうかもしれませんけどね」


失礼な。


「Aだって需要あるよ」

「あるんですか」

「ないこたあないって程度?」

「聞かないでくださいよ」


あたしにもわからん、と言ったなら、人間体じゃないです顔ですと、実も蓋もない答えが返ってきた。

どっちもどっちなあたしは、じゃあ、何で勝負に出たらいいんだろうか。


「だから家庭菜園ですよ」


そうなのか。


「ベランダ遊ばせてるのはもったいないですよ」

「で、芋?」

「秋ですから」

「メロンがいい」

「それ夏ですから」


そうは言うけども。


「今から育てんだよね?」

「はい」


何か?みたいに首を傾げた深雪は、どうやらおつむが足りないと見た。


「今から育てたって今秋中には食えないじゃん」

「あ、」


『いーしやーきいもっ、焼き芋ー』


沈黙の中、お馴染みのメロディがアパート下を通った。


「……買いに行きません?」

「屁こかないでよ」

「先輩こそ」


家庭菜園キットは、間違いなくお蔵入りだと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ