2
何となく考えていたことを深雪に聞いてみた。
「二十五過ぎると妖精になれるんだって」
「何の話ですか」
「処女の話」
「処女なんですか」と聞かれて「違うけど」と答えた。
処女じゃないけどセカンドに突入してだいぶ経つ。
妖精にはなれなくても、穴は塞がるんじゃなかろうか。
いや、処女膜が再生しないことくらい、あたしだって知ってるけども。
「ちなみに男だと何になれるんですか」
「魔法使いだって」
「魔法使いの方が格上じゃないですか」
確かに、妖精は魔法使いが連れてるイメージがある。
あんまり、魔法使いが妖精に連れられているイメージはないかもしれない。
こんなところでまさかの男女差別だろうか。
いや、格差?
これが男女の格差なのか。
「根本から正していかないとね、やっぱりなくならないものかね」
「何の話ですか」
「格差の話」
「魔法使いの話だったんじゃないんですか」
「まあね」と答えてから、煙草に火を点けた。
ああ美味い、煙草が美味い、人生は最高だ。
「いやはや、素晴らしい」
「魔法使いが?」
「いや、人生が」
「妖精の話はどうしたんですか」
深雪もまた煙草に火を点けたところで、妖精になった自分を考えてみた。
「気持ち悪い」
「まあ、気持ち悪いですよね」
メルヘンは似合わない。
ファンタジーも似合わない。
人生は素晴らしい、が、人生とは現実だ。
「これ、どうすんの」
「見ないで返却も癪ですけどね」
レジで誤って誰かのものと入れ替わったらしいレンタルDVDに、溜め息が出て煙が揺れた。
「『Dカップハイスクール』って」
「『にゃんにゃん言わせて』って」
「まんまじゃねえかよ」
登場する方々について、ある意味誰かの妖精なんだろうなとか、そんなことを考えてから。
あたしはやっぱり、妖精より魔法使いの方がいいよと言ってみた。
「穴が塞がらない魔法とか使えるんですかね」
「カビが生えない魔法とかね」
さて、このDVDをどうしようか。