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ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
6/11

グローブフォールで迎える最初の夜

夕暮れの光が、エデンの街を囲む巨大な樹冠の間に、ゆっくりと溶け込んでいく。

空は金色と青のグラデーションに染まり、小さな光の結晶――マナの粒子が、魔法の蛍のように静かに宙を漂っていた。


イーサンとエレーニャは、街へと続く大通りを並んで歩いていた。

淡い色の砂埃が夕日の中で輝き、その瞬間、世界は完璧に思えた。


二人は、何時間も一緒に訓練していた。


そしてイーサンは、ゲームに入って以来初めて、奇妙なほどの「普通」を感じていた。

エリュシオンは、ただのMMORPGではない。

ここでは――少なくとも今は――現実に限りなく近い何かを、生きている気がした。


遠くで、グローブフォールの白い塔が、黄昏の空を貫く光の槍のように輝いている。


歩みを進めるごとに、森の音は薄れ、代わりに人々の会話、金属を打つ音、商人たちの呼び声が重なっていく。

街は、確かに生きていた。


エレーニャは数歩先を歩きながら、背中の弓を調整する。


「今日は、かなり訓練できたわね」

彼女は振り返り、柔らかな笑みを浮かべた。


イーサンは両手を頭の後ろに回して笑う。


「正直、ここまでやれるとは思ってなかった。もっと早く死ぬと思ってたし」


彼女は片眉を上げる。


「実際、かなり危なかったわ」

少し間を置いて、声を和らげた。

「でも……覚えるのは早い」


イーサンは、わずかに頬が熱くなるのを感じた。


「命を救ってくれてありがとう。また、だな」


「気にしないで」

彼女は視線を逸らし、小さな笑みを隠す。

「ゲームでも、死ぬのは好きじゃないし」


少し間を置いて、付け加えた。


「それに……一人で訓練するのって、結構つまらないのよ」


その言葉は、イーサンの胸に静かに落ちた。

だが、彼は何も言わず、心の奥にしまった。


グローブフォールの正門に辿り着くと、制服姿のNPC衛兵たちが二人を迎え、街の照明が自動的に灯り始める。

光の糸に吊るされた魔法のランタンが、次々と宙に浮かび上がった。


市場は、夕暮れ時にもかかわらず賑わっていた。


色鮮やかな果物、輝く武器、軽装の防具、魔法の巻物、さらには精霊のペットまで。

露店が連なり、活気ある風景を描いている。


プレイヤーたちは語り合い、笑い、スキルを試し、小さな成長を祝っていた。


イーサンは、その光景を、初めてテーマパークに足を踏み入れた子どものように眺めていた。


二人は、大きな噴水の前に立ち止まる。

そこには、青い光を放つマナ結晶を掲げた守護者の像があった。


イーサンは、もう一度だけ浮遊パネルに触れる。


何も表示されない。

ログアウトのアイコンは、どこにもなかった。


ただ、システムの沈黙だけがある。


「……そっちにも、出てないよな?」


エレーニャは腕を組む。


「ええ。完全に……消えてる」


「やっぱりバグか」

彼は言った。


近くを通るプレイヤーたちも、同じ話題を口にしている。


「ログアウト消えたんだけど!」

「バグだろ、落ち着け」

「初日だし、普通だよ」

「明日には直るって」


「私たちだけじゃないわね」

エレーニャが言う。


「宿に行こう」

イーサンは答えた。

「明日には全部正常になってるはずだ。バグは、バグだし」


広場全体にランタンの灯りが広がる。


風は冷たさを増し、

仮想の夜空には、あまりにもリアルな星々が瞬いていた。

イーサンは、それがコードで生成されたものなのか、ニューラリンクがどこかの本物の空を切り取ったものなのか、一瞬分からなくなった。


エレーニャはマントを引き寄せる。


「冷えてきたわね」


彼女は、そっと彼の腕に触れる。


「大丈夫よ」


落ち着いた、優しい声だった。


それだけで、イーサンは胸に溜まっていた息を、ゆっくりと吐き出すことができた。


二人は並んで、灯りに満ちた大通りを歩いていく。

街の中心へと、ゆっくりと下りながら。


その夜が――

彼らがまだ、

自分たちは安全なのだと信じていられた、

最後の時間になることも知らずに。

※あとがき※


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

感想や評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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