表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
3/11

クローバーフォールの街

金色の光が、呼吸するかのようにイーサンの前で脈動した。

空中に半透明のパネルが展開される。

[初期クラスを選択してください]

彼の周囲にホログラムが立ち上がり、それぞれのクラスが太古の精霊のように命を宿す。

ウォリアー

筋骨隆々とした男。背には大剣。山さえも打ち砕けそうな、揺るぎない足取りと姿勢。

ソードマン

双剣がきらめく。地面に触れていないかのような軽やかさで、影が舞う。

タンク

重厚な鎧に包まれた巨躯。盾は聖なる門のように輝いていた。

アサシン

影に覆われた気配。湾曲した刃が、蛇のように現れては消える。

ヒーラー

手のひらから柔らかな光が溢れる。穏やかで、心を落ち着かせるようなオーラ。

サモナー

足元に魔法陣が脈打ち、エーテルの小さな存在たちが身体の周囲を巡っている。

アーチャー

引き締まった体躯。天の木から削り出されたような反り弓を構える、正確無比な姿。

メイジ

最後のホログラムは、不安定なエネルギーに包まれていた。

電光の火花、氷の結晶、風の流れ、小さな炎――複数の元素が周囲に顕現し、選択を待つ可能性そのもののようだった。

イーサンの胸の奥で、何かが動いた。

魔法が、彼を呼んでいる。

深く息を吸う。

「……メイジだ」

ホログラムに触れた瞬間、他のクラスは光の粒子となって霧散した。

新たなパネルが即座に現れる。

[選択されたクラス:メイジ]

[サブクラスを選択してください]

周囲がわずかに暗転する。

イーサンの前に、異なる適性を示すホログラムが並び立った。

クライオマンサー

空気が凍りつき、浮遊する氷晶が生まれる。

ストームコーラー

乾いた音とともに、電光が空間を切り裂く。

ウィンド・アルカニスト

見えない気流が渦を描き、空気そのものを歪める。

アースバインダー

大地から岩片がせり上がり、重く、確かな存在感を放つ。

フレイムズ・アークメイジ

そして、炎。

爆発ではない。

存在だった。

深く、生きている炎が、ゆっくりと立ち昇る。

熱は焼かず、強く、包み込むようで……どこか懐かしい。

イーサンの胸が熱を帯びる。

心臓が強く打った。

これだ。

迷うことなく、炎へと手を伸ばす。

「……お前だ」

触れた瞬間、炎が一気に広がり、灼熱のルーン文字が空中に浮かび上がる。

世界そのものが、その選択に応えたかのようだった。

パネルが確定を告げる。

[選択されたサブクラス:フレイムズ・アークメイジ]

[属性適性を確認:火]

生きた奔流のような熱が、全身を駆け抜ける。

選択は、完了した。

アバター作成

新たな画面が表示される。

だが、そこに映っていたのは、汎用モデルではなかった。

彼自身だった。

少し無造作な黒髪。

生き生きとした茶色の瞳。

はっきりとした眉。

疲れの影のない、意志を宿した表情。

自然に引き締まった体格。

二十代半ばの青年そのものの外見。

自信に満ちた立ち姿。

文字が前方に浮かび上がる。

「エリュシオン・オンラインは、神経スキャンにより、あなたの身体を忠実に再現します」

「没入感を損なわない範囲で、軽微な外見調整が可能です」

イーサンは近づき、投影された自分自身を見つめた。

「……そっくりだ。完璧だな」

何も変更しなかった。

新たなメッセージが現れる。

[名前を入力してください]

一瞬、考える。

顔が同じなら、名前も同じでいい。

ETHAN

[アバター確定。転送を開始します……]

足元から光が溢れ出し、床が液体になったかのように感じられた。

イーサンはエネルギーの渦に包まれる。

青、金、深紅の線が絡み合い、無限のトンネルを形作る。

まるで、ゲームそのものの生きたコードを通過しているかのようだった。

最後の閃光。

世界が、開く。

草の匂いを感じた。

風が頬を打つ。

遠くで、巨大な鳥の鳴き声が響く。

エデンの森が、巨大な生命体のように広がっていた。


挿絵(By みてみん)


建物ほどもある巨木の幹。

太陽光を受けて輝くエメラルドの葉。

光を帯びた川が、長い曲線を描いて流れている。

空には浮遊する山々があり、自然の橋で結ばれていた。

翼を持つ生き物たちが、雲間を横切っていく。

金色の光の束が、木々の梢を貫く。

そして、何よりも――

グローブフォールの街。

地平線の彼方まで続く、巨大な都市だった。

家屋、塔、商店が幾重にも重なり合い、あまりにも現実的な景色を形作っている。

それを見て、「ただのゲームだ」と考えることは不可能だった。

これまでに作られた、どんな仮想現実よりもリアルだった。

「……すごいな。現実離れしてる」

彼の前にパネルが現れる。

[チュートリアル ―― 第一階層へようこそ]

ようこそ、プレイヤー。

あなたは現在、エリュシオン・オンライン第一階層、エデンの森にいます。

セーフゾーン ―― 都市および村落。モンスターは侵入しません。

ワイルドエリア ―― 外縁の森林地帯。敵対的存在による攻撃が発生します。

目標 ―― 成長、生存、エメラルドの守護者を発見せよ。

現在のクラス ―― フレイムズ・アークメイジ。

重要規則:

完全没入を破る行為、NPCに対して「現実世界」や「ゲームである事実」に関する情報を明かす行為は禁止されています。

→ システムが自動検知し、重大な警告を発します。

NPCは不滅オブジェクトとして扱われます。

→ 攻撃行為は無効化されます。

→ 繰り返した場合、警告およびアカウント停止を含む処罰が行われます。

エンティティ識別:

緑アイコン ―― プレイヤー

青アイコン ―― パーティプレイヤー

紫アイコン ―― NPC

パネルは消えた。

柔らかな光がイーサンを包み込み、彼は直接、中央広場へと転送される。

そして、その街――

一瞬、呼吸を忘れた。

商人たちが客を呼び込み、

衛兵たちは開けた中庭で訓練を行い、

焼きたてのパンの香りが、木材と葉の匂いと混ざり合う。

白い石の塔が、太陽の光を反射して輝いていた。

プレイヤーたちは笑い、走り、驚嘆の声を上げる。

NPCたちは左右に行き交い、その動きはあまりにも自然だった。

頭上に浮かぶ小さな紫のアイコンがなければ、見分けはつかなかっただろう。

イーサンは一人の商人に近づいた。

「すみません……インベントリって、どうやって開――」

赤い通知が目の前に表示された。

[無効なインタラクション]

[NPCに外部情報を開示しないでください]

[自動警告 ―― 注意]

イーサンは戸惑い、後ずさる。

「え……?」

そのとき、背後から声がかかった。

「おい、大丈夫か。最初はみんなそうなる」

振り返ると、そこにいたのは軽装の鎧を着た若者だった。

短い緑髪、親しみやすい笑顔。

頭上には、緑のアイコン。

ダレン・ヴェラス。

二人の、最初の出会いだった。

「そいつはNPCだ」

ダレンは自然な仕草で説明する。

「ゲームの操作に関する質問には答えない。没入を壊そうとしてるって判断されると、システムが警告を出すんだ」

イーサンは安堵して笑った。

「ああ……なるほど。俺、完全に初心者でさ」

「だと思ったよ。チュートリアル、ほとんど見てなかっただろ?」

ダレンも笑う。

イーサンは気まずそうに頭をかいた。

「正直、全部スキップした」

「じゃあ、ゴブリンの餌になる前に、いくつか教えてやる」

ダレンは広場を歩きながら、落ち着いた口調で説明していく。

NPCに話しかけずにメニューを開く方法。

プレイヤー、パーティ、NPCのアイコンの違い。

内蔵マップの使い方。

マナの流れでモンスターを感知する感覚。

スタミナの自然回復。

初期クエストの発生条件。

経験豊富なプレイヤーの見分け方。

教え方は丁寧で、誰かに伝えることを心から楽しんでいるようだった。

イーサンは一言も逃さず聞き入る。

「本当に助かった。覚えるのに、相当時間かかっただろ?」

「気にするな」

ダレンは周囲を見渡しながら笑った。

「新人を助けるのが、この世界の面白さなんだ。それがなきゃ、ただの空っぽなゲームになる」

そのとき、広場の一角で三人のプレイヤーが彼を呼んだ。

「仲間が来たみたいだ」

ダレンはイーサンの肩を軽く叩く。

「会えてよかった。マジで。困ったら、また声かけろ」

立ち去る前に、彼は付け加えた。

「また会おうな、イーサン」

手を振り、彼はプレイヤーとNPCの波の中へと消えていった。

イーサンは、その場にしばらく立ち尽くす。

――その短い出会いが、

エリュシオン・オンラインにおける

かけがえのない友情の始まりになることを、

まだ知る由もなく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ