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ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
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完全神経エンターテインメントへの進化

ニューラリンクがもたらした革命は、医療、通信、そして人類の日常そのものを変えていた。

だが、その影響はさらに先へと踏み込もうとしていた。

これまで誰も足を踏み入れたことのない、新たな領域へと。

完全神経エンターテインメント。

この技術は本来、失われた人生を取り戻し、感覚を返し、肉体的制約から人々を解放するために生まれたものだった。

しかし、ビジネスの世界がそれ以上の可能性を見逃すはずがなかった。

「感じる」という行為が、もはや比喩ではなく、商品となる市場。

医療分野での圧倒的な成功を受け、大企業は次々と、娯楽目的での技術解放を求めて圧力をかけ始めた。

映画スタジオは、触れられる映画を欲した。

音楽プロダクションは、音の振動が魂を貫くライブを夢見た。

ゲーム企業は、プレイヤーとキャラクターの境界が完全に消える世界を求めた。

商業的思惑が渦巻く中、一社が頭角を現す。

ヘリックスビジョン・ゲームズ。

超現実的なシミュレーションで知られる最先端スタジオは、新時代でもっとも野心的な計画を提示した。

その指揮を執るのは、ヴィクター・シュタール。

あの規模を率いるには若すぎると言われながらも、彼は時代が求めるすべてを備えていた。卓越した技術力、先を見通す視野、そしてニューラリンク初期の感覚統合テストにおいて、本人と直接協力した実績。

ヴィクターは、誰もが口にするのを恐れていた可能性を、はっきりと見据えていた。

「ニューラリンクで世界を癒せるなら、

世界そのものを夢見ることもできる」

伝統的な企業からは引退していたものの、イーロン・マスクは遠くから技術の広がりを見守り続けていた。

疲れを滲ませながらも誇らしげな笑みを浮かべ、彼はヴィクターの計画を正式に支持する。

こうして、人類を再び変える発想が生まれた。

エリュシオン・オンライン ―― 最初の神経世界。

この計画は、こう発表された。

完全神経接続型MMORPG。

百分の百、神経同期。

全感覚対応。

現実物理演算。

自律型エコシステム。

適応型AI。

脳波に基づく魔法学習システム。

ヴィクターはそれを、こう表現した。

「生きている世界だ。

君を感じる世界。

君という存在に、応える世界」

ニューラリンクは、初めて治療装置であることを超えた。

それは、別の存在へと渡る橋となった。

エリュシオン・オンラインは、ただのゲームではない。

新たな現実の誕生だった。

数か月にわたり、世界はこの計画の成長を見守った。

曖昧なトレーラー。

意味深なティーザー。

試作段階の配信。

インフルエンサーを招いたカンファレンス。

公開デモンストレーション。

そして、「エリュシオンはプレイヤーを感じる」という尽きることのない噂。

かつてない規模の期待の中、世界同時ローンチの舞台に選ばれたのはサンフランシスコだった。

直前の数週間、街はまるで一本の長大な映画のようだった。

摩天楼には巨大なゲーム内クリーチャーが映し出され、

ドローンがデジタルバナーを掲げて空を舞い、

ホログラムは第一階層の光景を投影し、

パネルにはクラスや魔法が表示され、

人々は中央広場にテントを張り、

特設ショップでは限定アイテムが売られた。

街全体が、エリュシオンの色――金と青――に照らされ、少しずつその世界の一部になっていくかのようだった。

イベント当日。

スクリーンが暗転し、数千人が息を呑んだ瞬間。

巨大なホログラムとして、イーロン・マスクが街の上空に現れた。

明らかに年老いていた。白髪、深い眼差し、穏やかで、どこか父性的な佇まい。

それでも、その声に宿る力は変わらない。

「今日は、ただのゲームを祝う日ではありません」

「人類の精神そのものが、限界を越えた瞬間を祝うのです」

動きに合わせてホログラムが拡張し、まるで空そのものが語りかけてくるかのようだった。

「ニューラリンクは、癒やすために生まれました。

苦しみを和らげるために。

しかし今、私たちは初めて、それを“生きる”ために使うことができます」

観衆は歓声に包まれる。

「今日、私たちは不可能な世界への第一歩を踏み出します。

エリュシオン・オンラインは、単なる娯楽ではありません」

「想像と存在、その最終的な融合です」

背後で、仮想のドラゴンがサンフランシスコの空を横切った。

浮遊する森がビル群の間に現れ、

結晶の都市が大通りの中央に姿を現す。

ドローンはすべてを360度で中継していた。

前例のない光景だった。

誰にも予測できない何かの始まりだった。

街が期待と熱狂で脈打つ一方、

会場から離れた静かな小さなアパートで、イーサン・コール、27歳は一人きりでいた。

テーブルの上に置かれた、神経コネクターを見つめる。

それは単なる装置ではない。

冷たいコードと締切、無機質な画面に囲まれた人生から抜け出すための、唯一の機会だった。

深く息を吸う。

「……今日は、直さなくていい何かを、生きられるかもしれない」

イーサンはニューラリンクを接続し、

目を閉じた。

――そして、世界は消えた。


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