森の守護者 3
伏せろ!!」
ダレンが叫び、
その場で凍りついていた二人の新米へ覆いかぶさる。
空気が鳴いた。
ブゥゥゥッ――!
木の鞭が盾の上を掠めて通り過ぎる。
前衛で立っていた者のうち、
タンクではない者は――刈り取られた。
三人のプレイヤーが横へ吹き飛ばされ、
鎧は紙のように裂ける。
血が空中へ散り、
その惨たらしい色が戦場を塗りつぶした。
ジェイは、
直撃を盾で受けた。
ガァァン!
巨大な鐘が割れるような音が森に響く。
彼は倒れなかった。
だが後退を強いられ、
ブーツが地面を抉り、黄金の防壁が灰色の木に火花を散らした。
「ジェイ!」
イーサンが叫ぶ。
「平気だ!!」
ジェイが怒鳴り返す。声は掠れ、目は充血している。
「盾がある限り俺は生きてる!
殴り続けろ!!」
その隙を突いて、マーカスが前へ出ようとした。
だがウォーデンは速すぎる。
一体のミニ・アルボレタが、
ボスの背から飛び出し、
隣のタンクの盾へしがみつく。
そこに裂け目が生まれた。
マーカスは反射でそれを一刀両断した。
乾いた一撃。
だが、その動きが――彼を晒した。
側面から、枝が鞭のように来る。
バキィッ。
衝撃が肋骨を打った。
肺から空気が奪われる。
マーカスはトラックに跳ね飛ばされたように木へ叩きつけられ、
幹が身体を受けてひび割れた。
彼は歪んだ姿勢で地に落ち、
吸えない息を、必死に引きずり出そうとする。
「マーカス!!」
シエナの叫びは鋭く、裂けた。
「……平気だ……」
マーカスは喉を鳴らし、咳き込みながら答える。
意志だけで立ち上がる。
「止めるな……続けろ!!」
「ヒーラー!!
今すぐマーカスを治せ!!」
ジェイが怒鳴った。
戦場は崩壊寸前だった。
炎。悲鳴。木の裂ける音。
それらが混ざり合い、
敗北の交響曲になっていく。
シエナのマナはほぼ枯れている。
魔術師たちは疲弊し、手が震える。
それでも――
怪物の樹皮は、彼らが傷つけるより速く再生していた。
エレーニャは、
突き出た太い根の陰に身を伏せながら、
すべてを見ていた。
マーカスが衝撃でよろめくのを見た。
イーサンが炎を維持するために、
自分の命すら燃やしているように見えた。
彼女は、自分の手を見た。
震えている。
私は……何もできてない。
普通の矢じゃ、樹皮を通せない。
前方で、ウォーデンが新たな叩き潰しのために腕を引く。
胸が膨らみ、マナを吸い上げる。
核が脈打つ。
開く。
剥き出しに――なる。
ほんの一瞬。
それは窓だった。
唯一の窓。
「エレーニャ!!」
イーサンが叫び、身体を捻って彼女を見る。
「モンスターだと思うな!
ただの“的”だ!
核を撃て! じゃなきゃ俺たちは死ぬ!!」
その言葉は、
平手打ちみたいに彼女を叩いた。
エレーニャは、
ほんの一瞬だけ目を閉じた。
戦場の騒音。叫び。怪物の唸り。
すべてが遠のく。
代わりに聞こえたのは――
自分の心臓の鈍い鼓動だけだった。
彼女は深く吸い、
肺の中に空気を閉じ込める。
手が矢筒へ伸びる。
触れたのは、
いつもの矢ではない。
重さが違う。
黒曜石の鏃。
黄金のルーンで補強されたシャフト。
「……まだ、技を完全に掴めてない」
彼女は小さく呟く。
「本番で使うのは……初めて」
目を開く。
震えが止まった。
世界が、冷たく、澄んだ。
「……外せない」
彼女は遮蔽物から立ち上がった。
そこに恐怖はなかった。
あるのは――
絶対的な集中だけ。
それは――
衝突音ではなかった。
断裂だった。
核を包んでいた魔法防壁は、
悲鳴すら上げる暇もなく砕け散った。
無数の光の破片が宙へ弾け、
まるで星屑が爆発したかのように舞い散る。
ウォーデンは――
その動きを止めた。
完全に。
木の軋む音も、
大地を震わせていた重圧も、
すべてが不自然なほどに静止する。
次に響いた音は、
地殻が割れるようなものではなかった。
それは――
呻きだった。
低く、
引き裂かれた存在が吐き出す、
理解不能な悲鳴。
胸の中心。
青く輝いていた核に、
ひびが走る。
一本。
二本。
三本。
光が脈打ち、
暴れ、
そして――
崩壊した。
ウォーデンの全身を構成していた枝と幹が、
一斉に色を失う。
生命を主張していた緑は灰色へと変わり、
動きを保っていた魔力は、
音を立てて逃げていく。
巨大な身体が、
前のめりに傾いた。
「……当たった……?」
誰かが、呆然と呟いた。
次の瞬間。
ウォーデンの身体は、
内部から崩れ落ちるように――
崩壊を始めた。
枝が砕け、
幹が裂け、
重力に逆らえなくなった巨体が、
ゆっくりと地面へと倒れ込む。
ドォォォン――!!
衝撃が走る。
土煙が舞い上がり、
根が跳ね、
地面が悲鳴を上げた。
だが、
それ以上の破壊は起きなかった。
戦場は――
静まり返った。
誰も、すぐには動けなかった。
炎は消え、
悲鳴も止み、
ただ木屑と煙と、
立ち尽くす人間だけが残る。
エルエニャは、
まだ弓を構えたまま、
その場に立っていた。
呼吸が荒い。
腕が、少し遅れて震え出す。
彼女は矢筒を見た。
さっき放った矢――
最後の一本。
喉が鳴る。
「……生きてる……?」
ジェイが、
ゆっくりと盾を下ろした。
「……やったな」
その一言が、
堰を切ったように現実を戻す。
「勝った……?」
「今の……誰が……?」
「ボス……倒したのか……?」
イーサンは、
膝に手をついて荒く息をしながら、
エルエニャを見た。
目が合う。
一瞬の沈黙。
そして――
「……エルエニャ」
彼は、笑った。
疲れ切った、
でも確かな笑みだった。
「完璧だ」
シエナが、
煤だらけの顔で口笛を吹く。
「ちょっと待って。
あれ今の……
えげつなくカッコよくなかった?」
マーカスは、
肋骨を押さえながら短く息を吐く。
「……狙撃手だな」
それだけ言って、
小さく頷いた。
ジェイは、
エルエニャの前まで歩き、
盾を地面に立てる。
「守る価値のある背中だった」
エルエニャは、
ようやく弓を下ろした。
膝から力が抜け、
その場に座り込む。
笑う余裕はない。
誇る余裕もない。
ただ――
胸の奥が、熱かった。
「……当たって……よかった……」
その言葉は、
誰よりも自分自身に向けたものだった。
空が、
ゆっくりと元の色を取り戻す。
風が戻り、
森が、再び息を始める。
第一層。
最初の絶望。
最初の犠牲。
そして――
最初の勝利。
だが誰も、
それが「始まり」に過ぎないことを、
まだ口にはしなかった。
鋭かった。
それは、純粋な痛みの悲鳴だった。まるで森全体が一瞬で生きたまま焼き尽くされるかのような、甲高い叫び。
青い光が制御を失い、激しく明滅しながら漏れ出し、苦痛の色でその空間一帯を染め上げた。
「当たった!」
マーカスが叫んだ。その声には血と勝利が混じっていた。
「今だ! ヤツは無防備だ! 仕留めろ!!」
希望が爆発した。
まるで爆弾のように、集団の中で弾けた。
ダレンが剣を掲げ、前へと駆け出す。
「今だ!!」
彼は咆哮した。
「全力を出せ! トドメを刺せ!!」
魔法使い、戦士、弓兵――
全員が一斉に突撃した。
その好機に目が眩み、忘れていた。
最も古い、そして最も残酷な真理を。
傷ついた獣こそ、最も危険である。
ウォーデンの三つの眼が色を変えた。
冷たい青は死に、
血のような赤へと染まる。
彼はジェイを無視した。
軍勢を無視した。
炎を無視した。




