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ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
17/19

森の守護者 3

伏せろ!!」

ダレンが叫び、

その場で凍りついていた二人の新米へ覆いかぶさる。


空気が鳴いた。


ブゥゥゥッ――!


木の鞭が盾の上を掠めて通り過ぎる。


前衛で立っていた者のうち、

タンクではない者は――刈り取られた。


三人のプレイヤーが横へ吹き飛ばされ、

鎧は紙のように裂ける。

血が空中へ散り、

その惨たらしい色が戦場を塗りつぶした。


ジェイは、

直撃を盾で受けた。


ガァァン!


巨大な鐘が割れるような音が森に響く。

彼は倒れなかった。

だが後退を強いられ、

ブーツが地面を抉り、黄金の防壁が灰色の木に火花を散らした。


「ジェイ!」

イーサンが叫ぶ。


「平気だ!!」

ジェイが怒鳴り返す。声は掠れ、目は充血している。

「盾がある限り俺は生きてる!

殴り続けろ!!」


その隙を突いて、マーカスが前へ出ようとした。

だがウォーデンは速すぎる。


一体のミニ・アルボレタが、

ボスの背から飛び出し、

隣のタンクの盾へしがみつく。

そこに裂け目が生まれた。


マーカスは反射でそれを一刀両断した。

乾いた一撃。


だが、その動きが――彼を晒した。


側面から、枝が鞭のように来る。


バキィッ。


衝撃が肋骨を打った。

肺から空気が奪われる。

マーカスはトラックに跳ね飛ばされたように木へ叩きつけられ、

幹が身体を受けてひび割れた。


彼は歪んだ姿勢で地に落ち、

吸えない息を、必死に引きずり出そうとする。


「マーカス!!」

シエナの叫びは鋭く、裂けた。


「……平気だ……」

マーカスは喉を鳴らし、咳き込みながら答える。

意志だけで立ち上がる。

「止めるな……続けろ!!」


「ヒーラー!!

今すぐマーカスを治せ!!」

ジェイが怒鳴った。


戦場は崩壊寸前だった。


炎。悲鳴。木の裂ける音。

それらが混ざり合い、

敗北の交響曲になっていく。


シエナのマナはほぼ枯れている。

魔術師たちは疲弊し、手が震える。

それでも――

怪物の樹皮は、彼らが傷つけるより速く再生していた。


エレーニャは、

突き出た太い根の陰に身を伏せながら、

すべてを見ていた。


マーカスが衝撃でよろめくのを見た。

イーサンが炎を維持するために、

自分の命すら燃やしているように見えた。


彼女は、自分の手を見た。


震えている。


私は……何もできてない。

普通の矢じゃ、樹皮を通せない。


前方で、ウォーデンが新たな叩き潰しのために腕を引く。

胸が膨らみ、マナを吸い上げる。

核が脈打つ。


開く。

剥き出しに――なる。


ほんの一瞬。


それは窓だった。

唯一の窓。


「エレーニャ!!」

イーサンが叫び、身体を捻って彼女を見る。

「モンスターだと思うな!

ただの“的”だ!

核を撃て! じゃなきゃ俺たちは死ぬ!!」


その言葉は、

平手打ちみたいに彼女を叩いた。


エレーニャは、

ほんの一瞬だけ目を閉じた。


戦場の騒音。叫び。怪物の唸り。

すべてが遠のく。

代わりに聞こえたのは――

自分の心臓の鈍い鼓動だけだった。


彼女は深く吸い、

肺の中に空気を閉じ込める。


手が矢筒へ伸びる。


触れたのは、

いつもの矢ではない。


重さが違う。


黒曜石の鏃。

黄金のルーンで補強されたシャフト。


「……まだ、技を完全に掴めてない」

彼女は小さく呟く。

「本番で使うのは……初めて」


目を開く。


震えが止まった。


世界が、冷たく、澄んだ。


「……外せない」


彼女は遮蔽物から立ち上がった。


そこに恐怖はなかった。

あるのは――


絶対的な集中だけ。


それは――

衝突音ではなかった。


断裂だった。


核を包んでいた魔法防壁は、

悲鳴すら上げる暇もなく砕け散った。

無数の光の破片が宙へ弾け、

まるで星屑が爆発したかのように舞い散る。


ウォーデンは――

その動きを止めた。


完全に。


木の軋む音も、

大地を震わせていた重圧も、

すべてが不自然なほどに静止する。


次に響いた音は、

地殻が割れるようなものではなかった。


それは――

呻きだった。


低く、

引き裂かれた存在が吐き出す、

理解不能な悲鳴。


胸の中心。

青く輝いていた核に、

ひびが走る。


一本。

二本。

三本。


光が脈打ち、

暴れ、

そして――


崩壊した。


ウォーデンの全身を構成していた枝と幹が、

一斉に色を失う。

生命を主張していた緑は灰色へと変わり、

動きを保っていた魔力は、

音を立てて逃げていく。


巨大な身体が、

前のめりに傾いた。


「……当たった……?」


誰かが、呆然と呟いた。


次の瞬間。


ウォーデンの身体は、

内部から崩れ落ちるように――

崩壊を始めた。


枝が砕け、

幹が裂け、

重力に逆らえなくなった巨体が、

ゆっくりと地面へと倒れ込む。


ドォォォン――!!


衝撃が走る。

土煙が舞い上がり、

根が跳ね、

地面が悲鳴を上げた。


だが、

それ以上の破壊は起きなかった。


戦場は――

静まり返った。


誰も、すぐには動けなかった。


炎は消え、

悲鳴も止み、

ただ木屑と煙と、

立ち尽くす人間だけが残る。


エルエニャは、

まだ弓を構えたまま、

その場に立っていた。


呼吸が荒い。

腕が、少し遅れて震え出す。


彼女は矢筒を見た。


さっき放った矢――

最後の一本。


喉が鳴る。


「……生きてる……?」


ジェイが、

ゆっくりと盾を下ろした。


「……やったな」


その一言が、

堰を切ったように現実を戻す。


「勝った……?」

「今の……誰が……?」

「ボス……倒したのか……?」


イーサンは、

膝に手をついて荒く息をしながら、

エルエニャを見た。


目が合う。


一瞬の沈黙。


そして――


「……エルエニャ」


彼は、笑った。

疲れ切った、

でも確かな笑みだった。


「完璧だ」


シエナが、

煤だらけの顔で口笛を吹く。


「ちょっと待って。

あれ今の……

えげつなくカッコよくなかった?」


マーカスは、

肋骨を押さえながら短く息を吐く。


「……狙撃手だな」


それだけ言って、

小さく頷いた。


ジェイは、

エルエニャの前まで歩き、

盾を地面に立てる。


「守る価値のある背中だった」


エルエニャは、

ようやく弓を下ろした。


膝から力が抜け、

その場に座り込む。


笑う余裕はない。

誇る余裕もない。


ただ――

胸の奥が、熱かった。


「……当たって……よかった……」


その言葉は、

誰よりも自分自身に向けたものだった。


空が、

ゆっくりと元の色を取り戻す。


風が戻り、

森が、再び息を始める。


第一層。


最初の絶望。


最初の犠牲。


そして――

最初の勝利。


だが誰も、

それが「始まり」に過ぎないことを、

まだ口にはしなかった。


鋭かった。

それは、純粋な痛みの悲鳴だった。まるで森全体が一瞬で生きたまま焼き尽くされるかのような、甲高い叫び。

青い光が制御を失い、激しく明滅しながら漏れ出し、苦痛の色でその空間一帯を染め上げた。


「当たった!」

マーカスが叫んだ。その声には血と勝利が混じっていた。

「今だ! ヤツは無防備だ! 仕留めろ!!」


希望が爆発した。

まるで爆弾のように、集団の中で弾けた。


ダレンが剣を掲げ、前へと駆け出す。

「今だ!!」

彼は咆哮した。

「全力を出せ! トドメを刺せ!!」


魔法使い、戦士、弓兵――

全員が一斉に突撃した。

その好機に目が眩み、忘れていた。


最も古い、そして最も残酷な真理を。


傷ついた獣こそ、最も危険である。


ウォーデンの三つの眼が色を変えた。

冷たい青は死に、

血のような赤へと染まる。


彼はジェイを無視した。

軍勢を無視した。

炎を無視した。

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